コンテンツへスキップ

最新号22号:要旨

★ 会員は学会誌最新号の丸ごとファイルを会員専用ページで閲覧 & ダウンロードできます。 最新号の各論文・講演概要などはこのウエブサイトにて来年度4月1日に一般公開されます。

第22号(2024)目次(日本語…英語)
PDFファイル 1MB


学会誌『日本語とジェンダー』第22号(2024年3月22日発行)
   論文・講演の要旨(一部)


【招待論文】

『村上春樹の翻訳文体とジェンダー表現』―変幻自在の僕・私・あたし―  -------- p.1
       
斎藤理香(ウェスタン・ミシガン大学 教授)

 創作と翻訳をする作家・村上春樹の翻訳文における文体とジェンダー表現について考察する。村上は、近代日本文学の文体が欧米文脈の翻訳から作られてきたのと同様に、翻訳活動を媒介に自身の創作の文体を生み出してきた。彼の翻訳文体はしたがって、彼の創作の文体と重なっているが、英語の一人称 “I” の訳出の仕方には、創作には見られない特徴がある。たとえば、同じ「僕」という語り手でも『キャッチャー・イン・ザ・ライ』『グレート・ギャツビー』では男性性が強調され、『ティファニーで朝食を』ではそうならない。同じ登場人物でも、相手や状況に応じて「僕」あるいは「おれ」と異なる一人称を使い分けたり、また「あたし」が「私」との対比だけでなく、異色のキャラクター設定に一役買ったりするように訳される。こうした翻訳文体について、興味深く味わいながらも、ジェンダー・ステレオタイプを誇張し反復する可能性がないか注視していくことも肝要である。....

【書評】

『韓国文学の中心にあるもの』
(斎藤真理子、イースト・プレス、2022年)-------- p.33

銭坪玲子(鎮西学院大学 準教授)

著者と本書の紹介
 著者である斎藤真理子は2015年に、パク・ミンギュ著『カステラ』(ヒョン・ジェフン・斎藤真理子共訳、クレイン、2014年)で第1回日本翻訳大賞を受賞した翻訳者、著述家である。日本でも大きな話題となったチョ・ナムジュ著『82年生まれ、キム・ジヨン』(筑摩書房、2018年、以下、『キム・ジヨン』と表す)を翻訳したことでもよく知られている。これまで数多くの韓国文学作品の翻訳に携わってきた著者が、1945年以降の韓国文学作品を複数取り上げ、韓国文学に息づく「能動性」「生命力」の淵源や韓国文学の中心にあるものについて深く思考し、思いを綴ったのが本書である。
 本書は単なる韓国文学の読書案内ではない。2010年代後半から1945年へ、時代をさかのぼる形式で、それぞれの時代を代表する文学作品について紹介されているが、文学作品を通して、韓国の社会や歴史、政治、家族、個人にまで光があてられ、大胆かつ、きめ細やかな考察が加えられている。....

【第23回年次大会 基調講演 要旨】

『コーパス⾔語学の視点で考える「教育・ことば・ジェンダー」』

石川慎一郎(神戸大学 教授)-------- p.47

1.言語使用における性差研究とコーパス
 ⾔語教育、とくに外国語教育において、学習者に⾃然な産出を⾏わせようとすれば、⾔語における性差の存在について触れざるを得ない。ただ、ことばの性差というものは、往々にしてとらえにくい。このため、男性や⼥性の⾔語使⽤の⼀般的特質を記述する実証研究が古くから⾏われてきたわけであるが、その中には、ごく少数の話者の産出データを基にした主観的解釈も少なくない。しかし、⼩規模なデータから得られた知⾒の⼀般化には危険も伴う。「⼈が⾔語を使⽤するのと同じく、⼈は⾔語に使⽤されている」として、⾔語と性と権⼒の相関の構造を指摘したLakoff( 1973/1975)の記念碑的著作も、使⽤したデータの信頼性は制約的である。⼥性は付加疑問⽂を多⽤して決定をはぐらかすのだという Lakoff の主張に関して、Dubois & Crouch(1975)は、男⼥による会話の録⾳を分析し、ある種の状況においてはむしろ男性のほうが付加疑問を多⽤することを明らかにしている。....

【第23回年次大会 パネル・ディスカッション ことばとジェンダー:異なる教育現場より 要旨】

『小学校における呼称の使用について』 -------- p.51

渡部孝子(群馬大学 教授)

 OECD のEducation 2030では、2030年のより予測困難な不確実、複雑で曖昧となる世界に向けて、子どもたちが将来、個人的にも社会的にも健やかに生きることができる未来の創造を、教育が目指すべきとしている(白井 2020)。また、これから学校が求められることとして、学習指導要領(2017)の前文では、「一人一人の児童が、自分のよさや可能性を認識するとともに、あらゆる他者を価値のある存在として尊重し、多様な人々と協働しながら様々な社会的変化を乗り越え、豊かな人生を切り開き、持続可能な社会の作り手となることができるようにすることが求められる」(2017 p.15)と示されている。そこで、Education 2030や学習指導要領が目指す教育理念や教育目標を踏まえ、ジェンダーという切り口から小学校教育について論じる。
 現在の学校教育においては「社会科、家庭科、道徳、総合的な学習の時間、特別活動等の教科等、学校教育全体を通じて、人権の尊重や男女の平等、男女が共同して社会参画することや男女が協力して家庭を築くことの重要性についての指導の充実を図っている」。....

『大学生の敬語使用意識における男女差と敬語教育 』  ------- p. 54

横倉真弥(岐阜協立大学 准教授)

 人は、他者と自己イメージを表現、交換しながらコミュニケーションを行う。一般的に「丁寧さ」を表示する「敬語」もその使用によって様々な「イメージ」を与えることができるが、話者はそれを用いることでどのような自己を表現しようとしているのか。また、そこには男女差はあるのだろうか。上記の問題意識のもと、本発表では、(1)大学生を対象に行った敬語使用意識についてのアンケート調査(於:岐阜協立大学 2023年5月15日~22日実施)にみられる男女差と、(2)ポライトネスの観点からの敬語教育の課題の提示について報告する。
 アンケート調査の本発表に関わる質問内容は、①敬語が上手に話せる社会人男性/ 女性にどのような印象を抱くか。②敬語が上手に話せない社会人男性/ 女性にどのような印象を抱くか。③敬語を使うことで相手にどのような自分だと思われたいか、についてそれぞれ該当するものを選択肢の中から3つ選ぶというものである。....

『アメリカの大学生の言語使用における性差意識』 -------- p.57

斎藤理香(ウェスタン・ミシガン大学 教授)

 「ことばとジェンダー」研究は、社会の中の⾔語・言語使用・言語意識や態度における性差を問題化することで発展してきた。教育現場では、言葉と性差の実態や意識を単に反映するに留まらず、それらを強化・規範化する可能性も孕んでいることから、特に注意が肝要である。本発表では、アメリカにおける「ことばとジェンダー」をめぐる研究と教育について、具体的には「⼤学教育の現場で、性差と言語使⽤がどう認識されている(またはされていない)か」について、2、3の研究例の紹介と、自身(発表者)の研究・教育経験を基に考察した結果を報告する。
 まず、アメリカの教育現場における「ことばとジェンダー」研究を概観する。Litosseliti( 2004)によると、1980〜1990年代の研究では、教室内の教師と⽣徒、あるいは⽣徒間のインターアクションにおける⼥・男の違いがいかに「差別」または「差異」を⽣じさせるかが特に問題化されている。....

【第23回年次大会 研究発表 要旨】

『大学生はどのように「腹が立った出来事」について語るのか ―ジェンダー表現に注目して―』 -------- p.61

山本裕子(愛知淑徳大学 教授)・酒井香星(樹人医護管理専科学校教学助理)

1.はじめに:研究の背景
ことばの男⼥差が縮⼩し、いわゆる男性語やいわゆる⼥性語も⾔語資源の⼀つとして活⽤されていることが指摘されて久しい。因(2003:27-34)ではマンガでの異性語の使⽤が指摘されたが、⾃然会話においても陳(2010:88-92)等において異性語が使⽤されていることが観察されており、「⾔語資源」としての男性語や⼥性語の活⽤は、より⼀般的に、広範囲に及ぶものになっている。しかし陳(2010:93)、岡本(2020:214)等に指摘があるように、どのような表現でも⾃由に使⽤できるわけではなく、やはり異性語の使⽤には⼀定の制約があるように思われる。
 本発表では、男性語は⼀般に「丁寧」とは反対の価値を持ち、乱暴な印象との親和性が⾼いことから、男性語であるか⼥性語であるかによって、表現しやすい感情の範囲が異なるのではないかという考えを出発点とし、⼤学⽣の「腹が⽴った出来事」について語る会話にどのようなジェンダー表現が⽤いられるか、実際の会話に基づいて検討した結果を報告する。....

『グルメマンガの男女登場人物に割り当てられる「うまい」と「おいしい」―割り当てられる⽂脈とは何か―』 -------- p.64

稲永知世(佛教大学 准教授)

 本発表は、グルメ漫画の⼥性および男性登場⼈物に、「うまい」や「おいしい」といった味覚を評価する味ことば(味覚評価表現)が割り当てられるのはどのような⽂脈においてであるのかを分析および考察する。本発表では、以下のグルメ漫画を分析対象とする:『ワカコ酒』(1〜20巻)、『忘却のサチコ』(1〜19巻)、『孤独のグルメ』(1・2巻)、『深夜⾷堂』(1〜26巻)、『⼤衆酒場ワカオ ワカコ酒別店』(1〜7巻)。
 稲永(2022)は、ジェンダーにもとづいて、味ことばに関する規範と現実の落差をのぞくため、とりわけ「うまい」や「おいしい」といった味覚評価表現とジェンダーの関係に焦点を当て、①グルメ漫画および②グルメ番組における男⼥の味ことばを定量的に分析した。その結果、グルメ番組という現実の世界では、男⼥ともに「おいしい」系の使⽤が多いものの、グルメ漫画という「『仮想現実』(ヴァーチャル・リアリティ)」(⾦⽔ 2003:37)の世界では、「⼥性は『おいしい』系、男性は『うまい』系を⽤いる傾向が強い」(稲永 2022:147)ことを明らかにした。....

『女性主人公の恋の相手役として設定される「おネエキャラ」の言語行動について』 -------- p.67

河野礼実(立教大学教育研究コーディネーター)

 2000年代半ばに「おネエキャラ」ブームが起き、テレビのバラエティ番組などでは「おネエキャラ」「おネエタレント」と呼ばれる人物がよく出演するようになった。また、映画や小説などのフィクション作品でも「おネエキャラ」が登場する作品は多数見られる。発表者はこれまでの研究(例えば、河野 2015、2016、2019)で、上述したバラエティ番組に登場する「おネエキャラ」「おネエタレント」、ならびにフィクション作品(映画、ドラマ、小説、漫画)に登場する「おネエキャラ」の言語行動について分析を行ってきた。
 そうしたなか、2015年前後から、複数の少女漫画作品において、女性主人公の恋の相手役として登場する「おネエキャラ」を目にするようになった。本発表では、少女漫画に登場する、こうした「おネエキャラ」たちが、どのように描かれているのかを明らかにするため、発表者がこれまでの研究において対象としてきた「おネエキャラ」たちの言語行動と比較をしながら、分析を行った。....

『女性的な作品と女性作者との結びつきについて―〈女歌〉の含意―』-------- p.70

松田康介(京都大学大学院博士課程、⽇本学術振興会特別研究員)

 構築主義の考え⽅によれば、性差によることばの違いは「暗⽰的、明⽰的に教えられる中で『そのようなことばづかいを⾝に着けていく』」(村⽥ 2022:292)と説明される。⼈々が⾃⾝ の性別に応じてジェンダー化されたことばを不断に習得していくと考えるのならば、そもそもある⼈間に割り当てられる属性としてのジェンダーと、その⼈間の⽣産することばに⾒出されるジェンダーとはどのような関係性のもとで接続されるのだろうか。本研究では⽇本の伝統的定型詩である短歌に着⽬し、⼥性的な作品と⼥性作者との結びつきをめぐる問題について考察する。具体的には、〈⼥歌〉という⽤語が使⽤されるときその語に歌⼈たちが託す主体観の分析を⾏う。
 〈⼥歌〉とは、⼥性の歌といったような意味を広く持つ語である。⼥性歌⼈の阿⽊津英によれば、〈⼥歌〉という呼び⽅は折⼝信夫によって使われ始めた戦後から⼀般的に通⽤するようになったが、「歌壇ではその定義をめぐって幾たびも議論が起こり、ときに紛糾混乱した」(阿⽊津 2011:76)という。....

『日本における「ジェンダー」使用例と用法の曖昧さについて ― 「ジェンダー解体」をヒントにして―』 -------- p.73

吉田沙織(恵泉女学園大学講師)

 筆者が⽇本語教育とジェンダーに関する論⽂を執筆した際、資料の中に「ジェンダー」を「性別・男⼥」等の代わりに使⽤する例が⾒られた。そこで本研究では、本来の意味と異なるジェンダー使⽤の具体例を取り上げて考察を試み、「ジェンダー平等」が誤⽤拡⼤の⼀因となった可能性について述べる。最後に「ジェンダー解体」について紹介する。
 ⽇本においてジェンダーは「社会的・⽂化的な性別」と翻訳・定義されてきた。社会的・⽂化的な性別とは、⼥らしさ男らしさのような固定観念や、男⼥の⽣物学的差異に基づいた性別役割分担、また、男性中⼼主義的な考え⽅によって構築された社会のことである(若桑 2003:13)。それらをセックスと区別してジェンダーと呼び、可視化することで、男⼥平等を⽬指すのが本来ジェンダーの持つ批判的な意味合いであった。
 しかし現在、ジェンダーは様々な⾔葉の代替語となり批判性を失っている。
....

Topへもどる

HOME

Copyright © 2023 The Society for Gender Studies in Japanese
All rights reserved