【エッセイ】
お宮参りに見られる男女差
山崎佳子
昨年の3月ごろ、京都にいる息子から電話がかかってきた。2月に生まれた子供のお宮参りをするので、 来てほしいということだった。横浜を離れ、京都に移って6年以上が経つ。お嫁さんは生まれも育ちも京都なので、 息子も古都の文化に慣れ親しんできているようだ。
お宮参りの一連の説明を聞いて、大変違和感を持った。それは、孫娘の額に「小」という字を紅で書くということだった。 「小?」といぶかる私に、「うん、女の子は小、男の子は大って書くんだって。京都の人はみんなそうらしいよ。」 我が家では夫の家でも私の実家でもそういう事はなかった。横浜や東京では見たこともない習慣だった。 「どうしてもしなきゃならないの?」と聞いたが、京都では当たり前のことで、魔除けのおまじないなので、 しないと不安だとのことだった。
4月の中旬、小さな額に紅で「小」と書かれた孫娘を抱いて、近所の神社に行って、お宮参りは無事終了した。 神社の宮司さんにお聞きしても、京都では以前からこの慣習があり、魔除けとして男の子は大きく元気に「大」と書き、 女の子はかわいらしく「小」と書くとの説明だった。
柳田国男の『阿也都古考』によれば、これは平安時代に始まり、当時は「大」ではなく「犬」と赤ちゃんの額に墨で書いたそうだ。 もともとは神聖なものを示す印「×」「+」が記され、それが変化して「犬」と書かれるようになったとのこと。 字はかまどの墨が使われていたが、汚れるから紅で書かれるようになったそうだ。「犬」が「大」になり、 男子「大」の対としての女子があるという考えから「小」ができたということだ。
お宮参りからしばらく経った頃、テレビ番組の街頭インタビューで京都のお宮参りのしきたりを取り上げていた。 他の町では全く知られていなかったが、京都では年配の男女から高校生までほぼ全員が「大、小」のことを知っていた。 お宮参りを経験して、しきたりの中に現代でも封建的な男女差が強く残っていることを実感した。
2010年5月