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要旨:21号

★ 会員は学会誌最新号の丸ごとファイルを会員専用ページで閲覧できます。 最新号の各論文・講演概要などはこのウエブサイトにて来年度4月1日に一般公開されます。

第21号(2023)目次(日本語…英語)
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学会誌『日本語とジェンダー』第21号(2023年3月1日発行)
   論文・講演の要旨(一部)


【実践報告 要旨】

ジェンダーを学ぶ授業の実践報告 -------- p.1

銭坪 玲子(鎮西学院大学准教授)

1.はじめに
 2015年に国連で採択された「持続可能な開発目標(SDGs: Sustainable Development Goals)」では、2030年を期限とする17の目標が設定されている。そのうち、目標5はジェンダーである。ジェンダー平等の実現を達成し、すべての女性及び女児をエンパワーメントすることが掲げられている。同時に、SDGs で目標とされる社会を創る担い手を育むために、「持続可能な社会の担い手を育む教育(ESD: Education for Sustainable Development)」が求められている。日本では、小学校・中学校・高校の学習内容や各教科の教育内容、目標を定めた学習指導要領の改訂で、「持続可能な社会の創り手の育成」が明記された。この「新学習指導要領」は、小学校では2020年度、中学校では2021年度、高校では2022年度入学生から実施されている。SDGs の担い手の育成が教育現場に求められている。
 しかし、日本社会におけるジェンダー平等の実現への道のりは遠い。....

【書評】

『そのまんまの日本語』 ― 自然な会話で学ぶ ―
(遠藤織枝編、ひつじ書房, 2020年)  -------- p.11

齊藤 理香(ウェスタン・ミシガン大学教授)

1.「自然会話」を素材とした日本語教科書
 本書は、副題に「自然な会話で学ぶ」とあるように、ドラマや小説などの創作でなく、実際に交わされた会話をデータベース化した「コーパス」から抽出した語彙や会話文を素材として用いた日本語教科書である。会話文の音声はCD に収められているが、生の音声素材は雑音が入っていたり個人情報保護の観点からそっくりそのままは使えなかったりするため、コーパスの談話資料を基に書き起こした原稿を俳優に自然に読み上げてもらったという。
 コーパスとは、簡単にいうと、大規模に収集され電子化された大量の言語データのことで、たとえば国立国語研究所・言語資源開発センターのウェブサイト1)には、「日本語話し言葉コーパス」「日本語日常会話コーパス」「昭和話し言葉コーパス」「名大会話コーパス」「日本語諸方言コーパス」など音声言語を基にしたコーパスのほか、「現代日本語書き言葉均衡コーパス」「国語研日本語ウェブコーパス」「日本語歴史コーパス」のような文字言語に関するもの、さらに「中国語・韓国語母語の日本語学習者横断コーパス」(発話(データ)「多言語母語の日本語学習者横断コーパス」(話し言葉と書き言葉データ)のように日本語学習者をインフォーマントとしたコーパスも存在する。本書で使用されたのは、....

【第22回年次大会 基調講演 要旨】

配偶者の呼称「主人」の盛衰小史 -------- p.17

遠藤織枝(元文教大学教授)

0.はじめに
 世代を超えて「主人」追放の同じテーマが繰り返されるのはなぜかというテーマを与えられて、改めて戦後70年の新聞―『朝日新聞』「読売新聞『毎日新聞』の縮刷版を検索しながらその歴史を振り返ってみた。1950年代以降の「主人」関連の新聞記事を通読してみて気づいたのは、「主人」を言い換えようという問題提起の伝え方は、いつも以下のように展開されることであった。①主人は封建制度の名残だからやめよう。②今は主従の関係はなくなっているから使ってもかまわない。③符号として使っている。この3つの意見がいつも同じ比重で併記されていた。男女平等であるはずの世の中で従属関係を示すことばは使いたくない、という①の主張と、ことばを自分の生き方と結びつけることなく趣味的に考える②③の主張とは自ずから重さは違う。それなのに、新聞は3つをそれぞれ対等に並べて論じてきた。また、「主人」をやめようと言うと、自分の配偶者は「夫」で言い換えられても他人の夫を指す「ご主人」をどう言い換えるか、よい代案はないではないかという議論の立て方がされてきた。「ご主人」と抱き合わせに取り上げることで、「主人」→「夫」への言い換えにブレーキがかかる。こうした新聞世論が「主人」を温存してきたのではないか。....

【第22回年次大会 パネル・ディスカッション:ことばとジェンダー研究とその社会的実践 ― なぜ過去の議論や実践が継承されないのか ― 要旨】

研究と現実をつなげる ― 適切な言葉のない「息苦しさ」を次世代が感じることのないように ―  -------- p.39

銭坪 玲子(鎮西学院大学准教授)

 『言葉は社会を変えられる』(宇佐美 1997)を読んだとき、日本語教育でもこのような問題提起がなされていたことを嬉しく思ったのを今でも鮮明に覚えている。そして、今回、「なぜ過去の議論や実践が継承されないのか」というパネルに参加することになり、感慨深い。
 2015年には、国連においてSDGs(持続可能な開発目標)が採択され、17の目標のうち、目標5として「ジェンダー平等の実現」が掲げられた。1945年に女性参政権を獲得、1947年に男女平等を保障した日本国憲法を施行、1985年に女性差別撤廃条約を批准、同年、男女雇用機会均等法を制定(1997年、2006年、2016年、2020年に改正)、1989年に日本初のセクハラ訴訟「福岡セクハラ訴訟」提訴等、現代日本社会における女性の社会的地位獲得の背景には数多くの先達たちの覚悟や試行錯誤がある。近年では、# Me Too 運動や性暴力被害の告発など、国内でも多くの女性たちが声をあげ、全国的な展開を見せるようになった。一方、日本社会における女性の社会的地位の低さは依然として先進諸国の中でも際立っている。....

理想と現実のはざまで ― あいまいな私 ― ------- p. 42

加藤恵梨(愛知教育大学準教授)

1.周囲における「主人」の使用を振り返って
 友人の多くが既婚者であるが、会話の中で、「主人」はもちろんのこ「夫」という言葉も聞くことが少ないように思う。というのも、話題は専ら自身の仕事や趣味、健康に関することであり、それらについて話したいことが多いせいか、家族のことに話が及ばない。宇佐美(1997)は「自分の使う言葉が自分の思考法や行動にまで影響を与えるということに、そして、ひいてはれが社会全体の価値観にまでも影響を与え得るものだということに、みんなが気づかないとね」(p.65)と述べている。現代の女性が「主人」や「夫」という言葉を使わず、「私」を主語として話すことが一般的になっているのであれば、女性の思考法や行動が家族ではなく、「私」中心になってきていると捉えることができる。とはいえ、人に自身のパートナーのことを言う必要がある時には、私の周りの多くは「夫」と言い、話し相手のパートナーのことを言う時には「(名字)さん」「旦那さん」を用いることが多い。(しかし、「旦那(さん)」という言葉も「主人」と同様、問題があるだろう。)このように、「主人」という言葉を使うのは適切ではないと強く思っているが、....

未解決問題に向き合う姿勢 ― 新たな視点を得る必然性 ― -------- p.45

薛 小凡(お茶の水女子大学大学院 後期博士課程)

 言語とジェンダーの研究は、幕開けとなるレイコフ、そして早期に日本語とジェンダーの知見に貢献した壽岳、さらにパフォーマティヴィティの概念を導入したバトラー以降、現在に至るまで、さまざまな分野で展開されてきた。では、これまでどのような「研究成果」と呼べるものが生み出されたのであろうか。
 ここで、一体、何が「成果」と呼ばれるのか。先の世代の研究者は今後どのような「成果」を期待しているのであろうか。社会的実践に与えた影響を指すのであろうか。言語の問題では、「奥さん・様」「ご主人さん・様」のような言語表現の形式が変わらない、若しくは消えない限り、成果がないということであろうか。そうすると、「女・女性」、「男・男性」ということばはどうとらえたらよいであろうか。
 「男女共同参画社会」が公布されて3年後の2002年に、男性看護師の増加が切望されたため、法律によって「看護婦」という性別役割分業から生まれた女性の職業は正式に「看護師」に改められた。また、近年、....

社会の枠と個人の葛藤 ― 伝統を壊す勇気はまだ足りない ― -------- p.48

賈 伊明(名古屋大学大学院 後期博士課程)

 社会には、不可視の「枠」が存在している。この「枠」は、様々な形で現れ、社会の人々の言動を控えさせる。特に、性別二元制の社会規範において、男性あるいは女性に特化した「ことばの枠」が存在する。「ことばの枠」は主に2つの側面にあらわれ、それは「男性・女性が用いることば」と「男性・女性を表現することば」である。これらは「ことばのジェンダー・ステレオタイプ」の表現だと考えられる。本発表では日本語と中国語を比較し、両言語における「ことばのジェンダー・ステレオタイプ」について述べる。「男性・女性が用いることば」の例には、終助詞と配偶者の呼称があげられる。
 日本語の終助詞に関して、明治時代から女性特有のことばが確立され、終助詞の使用に性差が生じ始めた(鈴木 1998:162)。現代の日本語に性差があるかどうかについては、一致した見解が得られていない。一方、中国語で日本語の終助詞と似た役割を果たすものは「(句末)語気(助)詞」と呼ばれる。女性は男性より頻繁に語気助詞を用いる傾向があり(曹 1987:43)、相対的に女性が多く用いるものがある(劉 1997:158)。発表者が....

【第22回年次大会 研究発表 要旨】

中国との配偶者の呼称に関する一考察 ― 日本語との対照研究 ―  -------- p.51

任 利(東京農工大学准教授)

 配偶者の呼称は言語や社会的背景や文化・習慣によって異なる。また、時代や社会の変化に応じて変化していく。
 日本では、配偶者の呼称がよく「ことばとジェンダー」の問題としてクローズアップされてきた。特に、「主人」や「家内」という呼称はよく取り上げられている。文化庁(1999)の世論調査では配偶者の呼称 (女性の場合)「主人」が最も多く74.6%で (p.55)、配偶者の呼称(男性の場合)「家内」が最も多く51.1%である(p.52)。最近の水本(2017)の調査では、配偶者の呼称 (女性の場合)「主人」が33.0%で、配偶者の呼称(男性の場合)「家内」が20.5%である(pp.17-19)。文化庁(1999)の調査と比べ、使用率が半減したが、これらの呼称はまだ存続している。日本語の「主人」や「家内」ということばの本来の意味を考えると、性による差別語といえる。しかし、現代の日本では習慣的に使っているのが現状である。また、配偶者の呼称の問題としてよく注目されてきたのは、「日本では夫婦がお互いをパパ、ママあるいはお父さん、お母さんのように呼び合うことが多い。」(鈴木 1973:189)「子ども中心的用法」(金 2002:270)という日本の独特な言語習慣である。

日本語社会における女性の言語形式選択に関する減と意識 ―痴漢被害場面を事例として―  -------- p.55

豊田 雅(お茶の水女子大学大学院 博士後期課程)

1.研究背景と目的
 日本では痴漢に対してでも女性が「やめろ」、「触るな」などの命令形や禁止形ではなく、「やめてください」という言語形式を選択する(牟田、2018: 36など)傾向にあることから、「怒りや拒絶の言葉が女性から奪われている」(牟田、2001:127)ことが指摘されてきた。しかし、言語形式選択の表層と深層は必ずしも一致せず(金子、2002:192)、その深層を捉えるためには、話し手にその言語意識を尋ね、質的に分析する必要がある。
 そこで本研究では、痴漢被害場面を事例に、日本語を母語とする女性の言語形式選択に関する言語意識を調査し、「やめろ」が選択されない傾向にあるのであれば、そこにはどのような言語意識が存在するのかを考察した。
2.研究方法
 本言語意識調査は2022年8月から日本語を母語とする女子大学生及び大学院生40名を対象に1名ずつ実施し、所要時間はそれぞれ40分から1時間程度だった。調査はまず①場面想定法を用い、「痴漢被害場面で自分なら何と言うと思うか」を尋ね、その際、②評価尺度法を用い怒りの程度も確認した。....

 

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