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学会誌第8号-研究論文(水本・福盛・高田)

ドラマに使われる女性文末詞
―脚本家の意識調査より

水本光美・福盛壽賀子・高田恭子

 
要旨:  現実社会で若い世代を中心に消滅傾向にある女性文末詞が、テレビドラマの中では多用されている。脚本家へのアンケート調査により、その背景には、登場人物の役柄作りや、場面の効果的演出を狙う脚本家の意識が働いていることが判明した。実際のドラマでも、女性文末詞の高頻度話者の多くは、脚本家の挙げるステレオタイプに属している。一方、使用場面に関しては、女性ことばの優しい・上品といった従来のイメージとは一線を画し、抗議や反論など感情を表出する主張度の強い場面で、強いイメージとしての女性文末詞の使用が際立っている。この用法は、現実社会の若い世代の女性達には見られず、ドラマの中の女性文末詞を特徴づける特殊機能とも言える。女性文末詞の演出効果は、脚本家の持つトレンディな女性像やジェンダー意識を反映させながら、徐々に変化していくものと考えられる。
 
キーワード:  テレビドラマ、脚本家の意識、女性文末詞、自己主張、ジェンダー
1.はじめに
女性文末詞が現実社会の若い女性に使用されなくなってきていることは、1990年代から、多くの先行研究により指摘されている。中でも女性文末詞の代表格とされる「わ系」(「わ」「だわ」「わよ」「わね」「わよね」など)や「かしら」の衰退傾向は、尾崎(1999)、中島(1999)、小川(1997、2004)等により指摘されており、水本(2005)、水本他(2006)、水本・福盛(2007)の調査研究においても、20代30代においては、ほぼ消滅していることが明らかにされている。一方、テレビドラマにおいては、今なお高頻度で使用されているという事実がある。テレビドラマにおける女性語に関する研究としては、高崎(1996)、遠藤(1997)、最近のものでは、上述の水本らのものがあるが、ドラマの女性文末詞に焦点を当てた研究は全般的にまだ少なく、ことに、シナリオ集ではなくドラマの映像から直接収集した定量的なデータで証明したものは極めて少ない。なぜ、ドラマの中の女性は女性文末詞を多用するのだろうか。そこには脚本家のどのような意図があるのであろうか。本稿では、ドラマにおける女性文末詞の使用状況調査結果およびテレビドラマの脚本家に対して行ったアンケート調査付録1)の結果に基づき、脚本家の女性文末詞に関する意識を探るとともに、ドラマで使用される女性文末詞の特徴的機能について考察する。
 
2.脚本家の意識調査
2.1 調査方法
 
調査は、2005年10月から2006年6月にかけて脚本家316名を対象に実施し、80名の脚本家より回答を得た。回答者の年代は30代から80代までの広範囲に渡り、男女比はほぼ4対1、居住地は86%が首都圏である。調査項目は、主に次の6項目である。
 
 (1) ドラマの登場人物に話させる言葉と実社会で実際に話されている言葉との関係
 (2) テレビドラマとはどのような世界か
 (3) ”女性文末詞”に対するイメージ
 (4) 自身のドラマにおける”女性文末詞”使用状況
 (5) 日常的に女性文末詞を使う女性のステレオタイプ
 (6) 女性文末詞を使わせない理由
 
2.2 調査結果
 
上述の(1)から(6)までの項目に対しての回答結果について述べる。
 
2.2.1 ドラマの登場人物に話させる言葉
 
脚本家がドラマの登場人物の台詞を考えるとき、現実社会の言葉遣いを意識するかどうかについて、次の図1に示す。現実に話されている言葉を意識し、より現実に近い話し方をさせるようにしている脚本家は全体の4分1強に過ぎず(27%)、3分の2近く(61%)が実際に話されているかどうかより、登場人物のキャラクターが伝わりやすい話し方、および状況設定に合わせて話し方を選択している。これより、脚本家は現実より登場人物のキャラクターや状況を重視した言葉遣いをさせるということが分かる。
 
図1 ドラマと現実との言葉使いの相違
 
なぜ多くの脚本家がドラマにおいて実社会の言葉遣いを反映させることよりも登場人物のキャラクター作りや場面設定に応じて言葉遣いを選択するのかという答えが、次の図2に示す結果より明らかである。脚本家にとって、ドラマは虚構の世界(32%)、あるいは、現実に起こり得ることをドラマティックに脚色した世界(41%)であり、実世界の再現であると考えている脚本家は、わずか13%にとどまっている。すなわち、大方の脚本家は、ドラマはドラマであり、現実とは異なる世界であると認識しているため、そのための言葉遣いもキャラクター作りのために、現実とは異なる自分のイメージの具現化という目的のために利用しているのである。
 
図2 脚本家にとってのドラマとは
 
2.2.2 ドラマの中での女性文末詞の扱い
 
脚本家が女性文末詞についてどのようなイメージを持っているかは図3に示されるとおり、有効回答数77名中、半数以上(47名)が「女性的でやわらかい」と答え、プラスイメージでは、「上品」(20名)「丁寧」(18名)「やさしい」(17名)「美しい」(13名)「知的で教養がある(12名)などが続く。一方で「現代的ではない」(17名)、「中高年の婦人ことば」(15名)、「非現実的」(9名)など、現実使用との相違点を意識し、中には、「嫌み」(5名)や「感情的」(3名)などマイナスイメージの回答も見られる。全体としては、脚本家の女性文末詞に対するイメージは概ねプラスイメージであることが分かる。
 
図3 女性ことばのイメージ
 
次に、ドラマの中で女性文末詞を使わせる脚本家(69%)に対して、日常的に使う女性のステレオタイプ(年齢・職業・環境)を聞いてみたところ、次のようなタイプに分類された。
 
  1. 知的職業(教師、弁護士、キャリアウーマン、社長秘書)
  2. 中流以上の主婦(良妻賢母、セレブ妻、山の手の奥様)
  3. 世間知らずの箱入り娘、苦労知らずの娘
  4. 気取った女性
  5. おかま、ニューハーフ
脚本家にとって女性文末詞は、このような登場人物像を特徴づけるある種のデフォルメの道具として使用されているようである。では、どのような場面で脚本家は女性文末詞を使わせるのだろうか。
 
図4 20代から40代の女性に女性文末詞を使わせる場面
 
調査結果図4によると、回答者中この質問に対する有効回答者数53名中最も多かったのが、69.81%の脚本家が答えた「丁寧さや上品さをアピールする場面」である。次に「気取った場面」(56.60%)、「甘えたりすねたりする場面」(50.94%)、「からかう場面」(49.06%)、「色気を漂わせたい場面」「異性と愛を語らう場面」(ともに47.17%)が続く。また、「ムキになったり口論したりする感情的な場面」(39.62%)という答も見られたが、全体的に、女性文末詞は女性らしさを強調する場合に多く使用される。自由記述欄を見ると、「オカマ」「ニューハーフ」「ゲイボーイ」が「女性を演じる場面」、少女など若い女性が「背伸びをする場面」、詐欺師が「身分や職業などを偽る場面」、「本性を隠す場面」など特殊な自分を「装う」場面でのストラテジー的使用を指摘した脚本家(10名)がいる。一方、「普段の親しい仲間とのお喋り」「主婦の通常の会話」「ごく普通の場面の日常対話」など場面を意識しないとの回答(10名)も見られ、脚本家の女性文末詞使用場面への意識は一様ではない。
 
その他、「20代から30代の若い女性に女性文末詞をあまり使わせない/全く使わせない」という脚本家も21名(有効回答者74名中28%)おり、その理由に関しては、「現実的ではない」「日常の使用ではない」「死語である」「リアリティを感じない」というように、現実社会における女性文末詞使用の世代変化を認識している答えも得られた。なお、今回の調査では、女性脚本家からの回答は、全回答者80名中13名のみであったため、脚本家の性別による女性文末詞に対する意識差は確認できなかった。
3.実際のドラマに見る使用状況
脚本家へのアンケート調査から、実際には「非現実的」女性文末詞が、ドラマの中では、登場人物を特徴づける道具として使用されているという結果を得た。そこで、実際に放映されているドラマにおいて、どのような登場人物がどのような場面で使用しているのかを次に検証する。その際、女性文末詞の使用頻度と、登場人物の職業、年齢、ドラマのタイプとの相関関係を明らかにしたうえで、実際の使用例を詳細に観察する。
 
3.1 調査方法
 
2005年4月から2006年1月にかけてテレビで放映されたドラマ15本(トレンディドラマ10本、昼間の連続ドラマ、いわゆる「昼ドラ」5本)中の20代~40代前半の女性登場人物42名(20代18名、30代20名、40代前半4名)の普通体で話す台詞を調査データとし、個々の女性文末詞使用頻度と、キャラクター、及び、使用場面を観察・分類した。
 
表1 二項対立表(女性文末詞、使用不使用での対立表)
(N:名詞、イA:い形容詞、ナA:な形容詞、V:動詞)

女性文末詞使用形 不使用形 (neutral)
かしら(ね) かな、だろう(ね)、
だろうか(ね)、っけ(ね) 
N+ね、ナA+ね、等 N+だね、ナA+だね、等
N+よ(よね)/疑問詞+よ等、ナA+よ(よね) N+だよ(だよね)/疑問詞+
だよ等、ナA+だよ(だよね)
{V / イA / ナA / N}+のよ {V / イA / ナA / N}+んだよ
~わ /~わね /~わよ(わよね) 「わ」のない文末 / ~ね /
~よ(よね)

 

その際、基準とした女性文末詞使用率は、水本他(2006)による表1の「二項対立表」を用い、女性文末詞が出現可能な環境において、どの程度使用されているかを数値化した。
 
3.2 調査結果
 
3.2.1 女性文末詞使用高頻度話者の特徴
 
ドラマの登場人物42名の女性文末詞使用頻度は、0%から100%とかなりばらつきがある。しかし、全体的に、ドラマでは使用頻度が現実の女性たちより相当高く注1、40%以上の高頻度話者が42名中31名と全体の4分の3を占める。
 
ドラマ中の高頻度話者に共通する第一の特徴は社会的属性で、脚本家が女性文末詞を使わせるとした職種やグループに属する者が3分の2(31名中20名)を占める。詳細は、知的職業10名(作家1名、弁護士2名、教師3名、秘書2名、キャリア系OL2名)セレブ主婦4名、良妻賢母型主婦5名、ホステス1名であり、女性文末詞の職業・階層的フィルターの存在が見て取れる。
 
次の特徴は年齢である。ドラマ登場人物の中で35歳以上(15名)の使用率は、71.25%と高い。年齢が高くなるにつれて女性文末詞が使用される傾向は、低数値ながら現実にも認められるが注2、ドラマ中では、”若くない女性=女性文末詞使用”という構図が脚本家により一層強調されている。
 
第3の特徴は、話者の属性ではなく、ドラマのタイプにある。女性文末詞を高頻度で使用する登場人物は、いわゆる「昼ドラ」に存在する。彼女たち(11名)の平均使用率は75.96%と非常に高く、女性文末詞の昼ドラ用語的側面がうかがえる。
 
以上の高頻度話者達の用いる女性文末詞は、上品さや女っぽさとリンクし、登場人物のイメージやことばを柔らかくする働きである「ソフト機能」が作用している。
 
3.2.2 女性文末詞の使用場面
 
先の脚本家の意識調査の回答で興味深いのは、登場人物が意識的に「自分を装う」場面で女性文末詞を使用させるという回答が見られた点である。ほぼ40%(図4参照)の脚本家が、ムキになったり、口論したり、相手をからかったりするという、一見、上品とは言えない場面もあげており、これらは、女性文末詞が「普段のことば」ではなく特別な場面で用いる「特殊なことば」であることを示唆している。この視点から、高頻度話者以外の登場人物による使用場面に注目すると、ある特徴的女性文末詞の使用が認められるグループが見えてくる。彼女らはトレンディドラマの若い世代の登場人物であり、普段は女性文末詞を使用しないが、ある場面になると女性文末詞使用型にスイッチする。その「スイッチ型」に属する女性は42名中10名で、平均使用率は19%である。彼女たちは、どのようなときに女性ことばにスイッチするのだろうか。次の例は、典型的なスイッチ場面である。
 
例1:(会社の生意気な後輩に反論する場面)
後輩:怒ってるじゃないですか。この間からずっと。
A子:怒ってないわよ・・・怒ってないって。
 
例2:(突然かかってきた不審な電話に反論する場面)
電話:あの若い男性はB子さんの恋人なんですか。お付き合いしていらっしゃるんですか。
B子:付き合ってなんかいないわよ。なんでこんな質問に答えなきゃならないんですか。
 
A子(33歳・OL)の女性文末詞使用率は29.91%、B子(32歳・OL)は32.64%であり、普段は両者とも女性文末詞はあまり使わないタイプであるが、例1、2のように、ムキになって反論している場面では突如として女性文末詞を使用する。例2を詳細に見ると、不審電話の相手は未知の人物であり、当然、それまでは丁寧体で受け答えしていたわけだが、相手の発言に思わずかっとした場面で突然、「付き合ってなんかいないわよ」と、女性文末詞を伴った普通体にコードスイッチする。しかし、それに続く文では、再び丁寧体にスイッチしている。このように、脚本家は、女性文末詞を日常的な穏やかな会話ではなく、激しく冷静さを欠いた場面、反論の場面等で、突発的に使用させることがあり、それは、丁寧体、普通体の壁をも越えてスイッチするという特徴が見られる。
 
また、次の例3や例4のように、嫌みや皮肉を言う場面での使用も複数見られる。例3は先の例2のB子、例4は使用率42.86%の30歳主婦である。
 
例3:(結婚を宣言したB子に向かって後輩の加藤が)
 後輩:ここまで宣言したらもう後には引けませんよ。
 B子:あのさあ、加藤さんはどうしてそういう後ろ向きみたいなことばっかり考えるのかしらねー。あっ、は、は、は。
 
例4:(自分に連絡をしてこなかった友人に)
 C子:お見合いのほう、うまくいってますか。
 友人:あ、うん、もちろん。
 C子:じゃあ、デートでお忙しいのかしら。 
 
スイッチ型が使うこのような女性文末詞は、次の例5、6のように、高頻度に女性文末詞を使用するタイプにも、当然、頻繁に使われる。D子(39歳・教師)は使用率97.3%、F子(39歳・会社会長)は66.23%の高頻度型であり、どちらの例でも、嫌みを言うことで相手を攻撃するためのストラテジーとして女性文末詞を効果的に使用している。
 
例5:(罰当番のことで抗議してきた生徒に)
D子:進藤さんならともかく、あなたがそんな偉そうなことを言えるような成績をとってるかしら。
 
例6:(カラ元気を出して明るく振る舞う嫁に向かって)
E子:杏梨さんは手抜きをしないからえらいわよねー。朝からしっかりお料理して、朝からしっかりお洒落して。
 
ここに挙げた例に見る女性文末詞は、本来の柔らかいイメージでの使用とは一線を画し、主張度の強い、ある意味、タフな特殊な機能を持つ女性文末詞とも言える。では、このような場面での発話は、ソフトな場面と比べてどのくらいあるのだろうか。調査対象としたドラマの登場人物より全く女性文末詞を使わない人物2名(24歳の店員と25歳のスチュワーデス)を除く40名の中で、ドラマに偏りが出ないことと、発話数が多いことを条件に抽出した10名(高頻度話者6名、スイッチ型話者4名)の女性文末詞 注3  使用場面を分析したグラフが図5である。この図に見るように、「かしら」は、従来の上品な使用例より、皮肉・嫌みの場面での使用例のほうが多く、「わよ」は、主張度の強い場面での用例が普段のソフトな場面での用例を大きく上回る。高頻度話者による使用例の多い「わ」についても、その3分の1以上が主張度の強い場面で使用されている。
 
このようなタフな機能を持つ女性文末詞使用例の多さは、実は、ドラマがドラマティックであるゆえの非日常的な対立場面の多さに起因しているとも言える。そのような対立場マがドラマティックであるゆえの面において若い世代のスイッチ型の登場人物達が、感情を表出しつつ自分を強く押し出すために女性文末詞を突発的に使用することは、最近のトレンディドラマにおいて顕著に認められる特徴である。この特徴は、小説、マンガ、エッセイなどにおいて、因(2006)が「攻撃意図のある発話に、話者の通常の話し方からは逸脱とみなされる、女性のジェンダーを強く示す表現が選択されている」と指摘した点と符合する。また、山路(2005)が、小説における女性文末詞研究において、「若い女性が”わ”を使用している場合、強気な態度や相手を見下した態度を示す場面で”わ”が出現しやすい」と報告している点とも合致する。
 
図5 使用場面ごとの女性文末詞数
4.現実社会における主張度の強い場面での使用状況
脚本家の持つイメージやステレオタイプの観念により、女性文末詞が脚本家の表現手段としてドラマの女性たちに用いられることが、前述の2種の調査で検証されたが、現実社会でも、若い世代の女性たちは主張度の強い場面で女性文末詞を使用しているのだろうか。
 
まず、2004年から2006年にかけ、20代から40代合計94名の標準語話者注4を対象として女性文末詞「わ」の使用に関するアンケート調査注5を行った。その結果、図6に見られるように、相手に反論する場面で「わ」を使用すると回答したのは、20代28名中2名(7.14%)、30代27名中0名(0%)、40代39名中6名(15.38%)であった。20代、30代の若い世代に限れば、平均値3.64%と低い。ただ、この調査は紙面での意識調査であり、実際の会話で使われている状況と一致する保証はない。
 
図6 反論場面での「わ」の使用状況
 
そこで、2006年6月から2007年6月にかけ、20代と30代の標準語話者(合計19名)を対象に、実際の使用状況を調査するために実験を試みた。この実験で観察した女性文末詞は、ドラマでよく見られる若い世代の「スイッチ型」の女性が主張度の強い場面で突如使用する「わ」と「わよ」である。現実社会の中で抗議・反論などの主張度の強い会話を多数収録するのは困難であるため、そのような状況設定をしたロールプレイカード付録2)を作成し、女性同士による普通体の会話をしてもらった。時間は、各ロールプレイにつき5分程度で、各ペア3種類15分程度、合計10組を収録した。ロールプレイによる会話の状況は、あらかじめ設定されたものであり、現実場面のおしゃべりとは異なるが、話者の話し方や文末形式には影響を及ぼすものではなく、巻末の付録3に示すように極めて自然であった。この会話の分析の結果、女性文末詞の使用率は全体的に極めて低く、図7に示すように、20代、30代で各1名が3種のロールプレイ合計15分の会話において主張度の強い場面で「わ」を1回使用したにとどまっており、ソフト場面での使用(のべ3回)よりむしろ少ない。
 
図7 機能別女性文末詞使用回数
 
以上の調査および実験結果より、主張度の強い場合の「わ」「わよ」は、ドラマで見られるようには現実社会では使われていない可能性が極めて高いという示唆を得ることが出来た。ただし、脚本家が女性文末詞を使用するとした、からかい、皮肉、冗談の場面については、データを増強しつつさらなる調査が必要である。
5.まとめ
本研究では、脚本家に対するアンケート調査、テレビドラマの女性文末詞使用状況調査、反論場面に関するアンケート調査、若い世代によるロールプレイ実験調査、以上の4種の調査により、次の3点が明らかになった。
 
(1) 脚本家にとってドラマは虚構の世界であり、女性文末詞は、登場人物像を特徴づける ある種のデフォルメの道具として多くの脚本家に積極的に使用されている。
(2) 脚本家が持つ女性文末詞を使用するイメージは、やわらかい、知的、上品。そのステレオタイプとしては、知的職業、中流以上の主婦、世間知らず、などがある。
(3) 場面設定としては、(2)のイメージをアピールしたり装ったりする場面、および、自己主張や感情的な場面であるが、実社会の若い世代においては主張度の強い場面でも女性文末詞に転じる傾向は極めて少ないと見られる。自己主張場面で突如現れる女性文末詞の使用はドラマ中の特徴的使用法と考えられる。
6.おわりに
かつて日常的に使用されていた女性文末詞は、時代の流れとともに、若い世代においては非日常化し、ドラマ用語的様相を呈してきた。そこには、意図的に女性文末詞をキャラクター作りや場面を際だたせる道具として認識する脚本家の存在がある。そこで使用される女性文末詞は、対立関係にある場面においては感情の露出や相手への皮肉の場面を際だたせる役割を担わされている。それは、従来の「優しい・上品」といった女性のイメージとは異なり、女性が強い内面を表出する場合に使用する女性文末詞である。この使い方は本稿で調査した限り、現代社会の若い女性には見られない。
 
なぜこのような場面で、脚本家は女性文末詞を使用するのだろうか。その理由の一つには、女性文末詞の元来持つソフトな機能を利用したストラテジーがあるように思える。すなわち、女性文末詞のベールをかけることで、女性の強い感情や主張は和らげて伝えられるのである。「自己主張する女性」が、「品位や冷静さを欠く女性」として捉えられていた過去のある時期、社会のそのようなジェンダー意識の下にあって、日常場面では女性文末詞を使用しなくなっていた女性も、己が強く見えそうな場面では女ことばにスイッチするということが現実にあったかもしれない。であれば、その現象から「女性が自己主張する場面=女性文末詞使用」というコンセンサスが生まれても不思議はない。現在のドラマにおけるスイッチ型は、その残存だとは考えられないだろうか。結果的に、元来、ソフトなベールであったはずの女性文末詞が女性の強い内面を押し出す際の道具になる、というパラドックスが、現在、ドラマの中で生じている。
 
しかし、現実の若い女性たちは、すでにベールは脱ぎ捨て、普段使う言葉で、あるいは、時として男性度の高いことばを使用して自己主張をすることもある。この現実の変化を踏まえ、若い世代には女性文末詞を使わせないという脚本家も存在する。また、筆者らがテレビドラマの調査を開始した頃に比較すれば、この数年間で、特にトレンディドラマの領域においては、若い女性による女性文末詞使用も全体的に衰退傾向にある。これらを考え合わせると、将来的には、このような「ドラマ語」としての女性ことばも、徐々に消滅してゆくのかもしれない。あるいは、時代劇中のことばのように、ドラマ語としてのみ存続してゆくのかもしれない。いずれにせよ、女性文末詞の演出効果は、脚本家のジェンダー意識やその時代にあう女性像を反映させながら、徐々に変化していくものと考えられる。今後も定期的な調査を継続しつつ注目してゆきたい。
 
  1. 水本他(2006)の調査で、トレンディドラマにおける20代~30代女性の女性文末詞使用率は、実際の会話の使用率の約10倍であることが明らかになった。本文に戻る
  2. 水本他(2006)における実際の会話調査結果(p.59)では、女性文末詞の平均使用率は20代 (2.46%)、30代 (7.17%)と年齢が上がるにつれて使用率も上昇傾向にあることが分かった。40代の使用率が30代よりも更に上昇することは、水本他(2007)における会話調査結果でも報告されている。(p.86)本文に戻る
  3. 分析対象とした女性文末詞は一般に女性文末詞の代表格とされる「わ」系(「わ」「わよ」「わね」)と「かしら」とした。本文に戻る
  4. 10年以上関東圏(東京・埼玉・千葉・神奈川)に居住し、日常会話で標準語を話す女性を標準語話者として選定した。職業は、大学生、大学院生、教師、主婦などである。本文に戻る
  5. アンケートは会話完成方式で、相手への反論場面での会話の語尾を選択したもらい、「わ」を使用するかどうかを調査した。本文に戻る
調査対象テレビドラマ
  1. あいくるしい(TBS:2005年4月~6月放映)
  2. アネゴ(日本テレビ:2005年4月~6月放映)
  3. うちはステップファミリー(TBS:2005年4月~5月放映)
  4. エンジン(フジテレビ:2005年4月~6月放映)
  5. キッズウォー(TBS:2005年8月~9月放映)
  6. 汚れた舌(TBS:2005年4月~6月放映)
  7. 恋に落ちたら(フジテレビ:2005年4月~6月放映)
  8. 女王の教室(日本テレビ:2005年7月~9月放映)
  9. スローダンス(フジテレビ:2005年7月~9月放映)
  10. 曲がり角の彼女(フジテレビ:2005年4月~6月放映)
  11. ママアイラブユー(TBS:2005年11月~2006年1月放映)
  12. ヤクソク(毎日放送:2005年5月~7月放映)
  13. 湯けむりウォーズ(TBS:2005年4月~5月放映)
  14. 夢で会いましょう(TBS:2005年4月~6月放映)
  15. 離婚弁護士(フジテレビ:2005年4月~6月放映)
参考文献
  • 遠藤織枝(1997)「ドラマのことば-NHKTV「レイコさんの歯医者さん」をめぐって-」明治書院,67-79.
  • 小川早百合(1997)「現代の若者会話における文末表現の男女差」『日本語教育論集―小出詞子先生退職記念-』凡人社,205-220.
  • 小川早百合(2004)「話し言葉の男女差-定義・意識・実際-」『日本語とジェンダー』vol.4, 日本語ジェンダー学会: https://www.gender.jp/journal/backnumber/no4_contents/ogawa.html
  • 尾崎喜光(1999)「女性専用の文末形式のいま」現代日本語研究会(編)『女性の言葉・職場編』ひつじ書房,33-58.
  • 高崎みどり(1996)「テレビと女性語」『日本語学』明治書院46-56.
  • 因京子(2006)「談話ストラテジーとしてのジェンダー表示形式」『日本語とジェンダー』日本語ジェンダー学会(編)ひつじ書房,773-785
  • 中島悦子(1999)「疑問表現の様相」現代日本語研究会(編)『女性の言葉・職場編』ひつじ書房,59-82.
  • 水本光美(2005)「テレビドラマにおける女性言葉とジェンダーフィルタ -文末詞(終助詞)使用実態調査の中間報告より-」『日本語とジェンダー』Vol.V,日本語ジェンダー学会, 23-46.
  • 水本光美(2006)「テレビドラマと実社会における女性文末使用のずれにみるジェンダーフィルタ」、日本語ジェンダー学会(編)『日本語とジェンダー』ひつじ書房, 73-94.
  • 水本光美・福盛壽賀子・福田あゆみ・高田恭子(2006)「ドラマに見る女ことば『女性文末詞』-実際の会話と比較して-」『国際論集』第4号,北九州市立大学,51-70.
  • 水本光美・福盛壽賀子(2007)「主張度の強い場面における女性文末詞使用―実際の会話とドラマとの比較―」『国際論集』第5号,北九州市立大学,13-22. (http://www.kitakyu-u.ac.jp/laic/kiyou/2007_kr1_5/2007_kr1_5.html)
  • 水本光美・福盛壽賀子・高田恭子(2007)「会話指導における女性文末詞の扱い」『第6回OPI国際シンポジウム:発表論文集』関西OPI研究会他,85-90.
  • 山路奈保子(2005)「小説における女性終助詞『わ』の使用」『日本語とジェンダー』6、日本語ジェンダー学会(https://www.gender.jp/index.html)
 
付録1. <脚本家へのアンケート>
付録2. <ロールプレイカード例>
 
学生バージョンと社会人バージョンなど、あり得る自然な状況設定によるカードを5種類準備し、その中より3種実施した。次は社会人バージョンの例である。
 
1-A
昨日、渋谷で親しい女友達(B)が男の人と楽しそうにデートしているのを見ました。相手は誰か、新しい彼氏ができたのか、友達(B)に聞いてください。あなたが見たのは確かに友達で、見間違えではないということに、あなたは自信があります。
1-B
友達(A)が、昨日あなたがデートしているのを見たと言っていますが、あなたは、昨日は一日中、家にいました。友達が見たのは人違いで、あなたは友達に嘘をついたりしないということを、きっぱり言ってください。
2-A
あなたは、大企業に勤めるOLですが、仕事はコピー取りなどの単調なものでおもしろくありません。最近、関わっているボランティア活動に非常に興味を持ち、アフガニスタンの難民支援に現地に行きたいと思っています。現地が危険なことは承知していますが、アフガニスタンの子供たちを放っておくことはできません。お姉さんにあなたの気持ちを打ち明けてください。
2-B
妹があなたに相談をします。あなたは反対してください。あなたの妹は安定した大手企業に勤めはじめて1年目ですが、仕事をやめて、アフガニスタンにボランティアとして、難民支援に行きたいと言い出しました。まだ現地は治安が悪くて危険なところだと聞いています。何とかして思いとどまらせてください。
3―A
昨日の日曜日は 会社の上司の家の引っ越しの手伝いに同じ部署のみんなで行くことになって いました。あなたは行って夜遅くまで手伝いをさせられましたが、同僚のB子は来ていませんでした。あなたは月曜の朝、会社の給湯室でB子に会いました。どうして来なかったのか、どんなに引っ越しの手伝いが大変だったか、文句を言ってください。
3-B
あなたはきのうの日曜日に会社の上司の引っ越しの手伝いに行くことになっていました。が、先週は残業続きで大変忙しく、土曜も休日出勤をして仕事を片づけなければなりませんでした。日曜は疲れていて起きることができませんでした。A子に事情を説明してください。
 
付録3. ロールプレイ例
A、B(ちゃみ)ともに20歳大学生
 
A:昨日、私、ちゃみのこと渋谷で見かけた気がするんだけど。昨日何してたの?
B:昨日はね、なんか一昨日、旅行から帰ってきて、すっごい疲れてたから昨日は一日中ね、家にいた。
A:でも私、絶対、ちゃみ見たんだけど。
B:でもね、ちゃみ家にいたんだよ。
A:しかもなんか男の人と楽しそうになんか歩いてたんだけど。
B:いやいやいやいや、男とか最近ないから。
A:うそ、隠してない?なんか。
B:なんも、隠してないよ。
A:え、彼氏いないの?
B:いない、え、ほんとにね、最近ね、男と遊んでないんだよ。
A:え、ほんとに?彼氏できたら言おうって約束したじゃん。
B:うん、するよ、全然するする。
A:うそ!
B:ほんと。
A:サークルの人とかは?いい人いないの?
B:サークル、サークルでも、なんか、うん、全然、なんだろうな、いいなって思う人いるけど、でも全然遊びに行く感じではないし、
A:じゃあ、昨日のなんだったんだろう。絶対見たんだけど。
B:絶対、家いた。
A:しかも私、とみと一緒にいたけど、とみもちゃみって言ってたよ。
B:え、絶対にないよ、だって、家にいたんだよ、ほんとに。ありえない。
A:うそ!
B:見間違えだよ。
A:え、一瞬でもどっかに行ったとかないの?
B:ない。本当に家にいたの。一日中。
A:えー、でも二人がさあ、なんか見たからさあ、絶対そうだと思うしさ。
B:絶対、見間違えですよ。空似ですよ。
A:え、なんで隠すの?
B:隠してないってば。ほんとね、家にいた。
A:えー、じゃあ見間違えってことかな。
B:そう、絶対、見間違えだよ。
A:えー、絶対、とみともずーっと話してて、二人であと付けてたら、絶対ちゃみだってなったもん。
B:とみーもね、見間違えたんだよ。二人とも見間違えだよ、それ。
A:二人で見間違えって、なかなかなくない?
B:でも、ちゃみ家いたんだよ。
A:え、一人で?
B:ううん、マミーもいた。
A:うそ、
B:マミーに聞けばわかるよ。絶対。
A:え、でも、そんなマミーとか知らないしさ、えー、聞けなくない?
B:うん、聞けない。でも家にいたもん。疲れてたんだよ。ほんとに、昨日。
A:えー、絶対、見たよ、私。
B:ないね、見間違えだね。
A:そんなことない。
B:ほんとに絶対ね、ない。
A:え、あるって。彼氏でしょ?
B:だから男と遊んでないの、最近。
A:どのくらい?
B:うんとね、この間なんか、3カ月前ぐらいに別れたじゃん。その後、なんか一人ちょっと遊んだけど、でも、一回しか遊んでないし、全然遊んでないよ。
A:連絡とってないの?それから。
B:連絡も全然取ってない。なんか、そう、もうあとは、男友達とメールとかするだけで、ほんと誰と遊びに行くとかもないし、うん、ないね。
A:えー、私とみに、とみもじゃあ今度連れてくるからその時話、
B:いいよ。絶対、いいよ。まじだって、ほんと家にいたもん。ありえない。
A:えー、私も絶対、見たから、とみ連れてくるよ、今度。
B:いいよ。連れてきなよ。絶対ないから。
 
(水本光美 みずもと てるみ 北九州市立大学教授
福盛壽賀子 ふくもり すがこ 北九州市立大学非常勤講師
高田恭子 たかだ きょうこ 北九州市立大学非常勤講師)
 
 
 
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