コンテンツへスキップ

学会誌7号:調査報告(有泉)

ジェンダー・ステレオタイプにおける知識と個人の考え
および偏見の関係
――特性語に関する調査研究注1――
有泉優里
要旨:本研究では、社会通念としてのジェンダー・ステレオタイプの知識、その知識を個人の考えとして認知する程度、及びジェンダーに関する偏見にどのような関 係にあるのか、質問紙調査により検討した。検討に用いるジェンダー・ステレオタイプ特性語として、ジェンダー・ステレオタイプとして認識される程度が強い 特性語を選出し、男性・女性ステレオタイプ特性語リスト(各語)を作成した。そのリストの各特性について、質問紙において、ジェンダー・ステレオタイプの 知識や個人の考えを尋ね、またジェンダーに関する偏見度について回答を求めた。その結果、ジェンダー・ステレオタイプの知識を持っているほど、その知識を 個人の考えとしても認知する傾向があることがわかった。しかし、その知識を持っていることが直接に偏見に結びついているわけではなかった。ジェンダーに関 する偏見を予測するのは、ジェンダー・ステレオタイプの知識を個人の考えとして認知する傾向であることが示唆された。
 
キーワード:ジェンダー・ステレオタイプ、偏見、特性語
1. ジェンダー・ステレオタイプと偏見
1.1 ジェンダー・ステレオタイプ
 
ステレオタイプとは、ある社会的カテゴリー(性別、年齢、人種等)に属する人々が持つとされる画一的な特徴についての信念(思い込み)のことである。 ジェンダー・ステレオタイプとは、男性や女性についてのステレオタイプのことで、具体的には、一方の性別によりあてはまると人々に信じられている心理的特 性や行動特性のことを指す(Williams & Best, 1982)。例えば、「男性は行動力がある」や「女性は感受性が豊かだ」等のジェンダー・ステレオタイプがある。本研究の主要な目的は、社会通念としての ジェンダー・ステレオタイプの知識、その知識を個人の持つジェンダー・ステレオタイプとして認知する程度、及びジェンダーに関する偏見がどのように関係するかについて、質問紙調査による実証データに基づいて検討することである。
 
ステレオタイプは、一般的な理解では偏見の同義語として否定的に捉えられる傾向があるが、実際は多様な側面があり、ステレオタイプに関して様々な研究ア プローチがある。偏見は、ステレオタイプの中でも否定的特性やそれに基づいた考え方や行動を指し、否定的感情を伴うことが多い(塩村,2004)。ジェン ダー・ステレオタイプは、性別に基づいた偏見や差別、あるいは自身や他者の行動や考え方の束縛に結びつく可能性があるとされ、ジェンダー研究ではしばしば 社会的な問題の原因のひとつとして取り上げられる(青野・森永・土肥,1999)。一方で、社会的認知研究のように、ステレオタイプを人間の情報処理にお ける重要資源として捉えることもできる(e.g., 唐沢,2001)。社会的認知研究は、社会的な情報を知覚した際の推論や判断の過程が、人間の社会行動にどのように影響を与えるかを、認知科学等の研究手 法を用いて検証する社会心理学の研究分野である。ステレオタイプが情報資源とみなされるのは、外界の情報が人間の情報処理能力を超えるほど膨大であるた め、情報処理の効率を上げるために特定のまとまった知識が必要になるためである。しかし、否定的なステレオタイプである偏見の低減は社会的認知研究でも主 要な課題であり、特定のステレオタイプを用いた判断を行わない、あるいは思いつきにくくさせる方略が数多く検討されている(e.g., 潮村,2004)。
 
ジェンダー研究や社会的認知研究を概観すると、それぞれでジェンダー・ステレオタイプの異なる面が着目されてきたといえるだろう。ジェンダー研究では、 ジェンダー・ステレオタイプが如何に個人の考えや行動に影響を与え、その結果男女不平等が生じてきたかに焦点が当てられている。したがって、主に個人の考えとしてのステレオタイプの側面が着目されてきたといえる。一方、社会的認知研究では、個人が社会通念としてステレオタイプの知識を持つことと、その知識 と同じ信念を個人が持っているかは概念的に分離していると考えられている(Devine, 1989)。そのため、ステレオタイプの知識が実際の判断状況で用いられる際に、どのような心理過程が生じるのかに焦点が当てられる。したがって、主に社 会通念としてステレオタイプの知識の側面が着目されてきたといえる。これらの2側面は、同じ「ジェンダー・ステレオタイプ」という言葉で表すことができるが、必ずしもジェンダーに関する偏見と同じように関わっているとは限らない。そこで本研究では、ジェンダー・ステレオタイプの知識と個人の考えとしての ジェンダー・ステレオタイプ、及びジェンダーに関する偏見との間にはどのような関係があるのかについて検討することにした。
 
1.2 ジェンダー・ステレオタイプと特性語
 
本研究では、検討に用いるジェンダー・ステレオタイプ特性を、日本語の特性や研究の目的を考慮しながら選出することにした。これまで心理学の研究で取り上げられてきた男性性や女性性に関する特性語は、抽象的なものか社会的に望ましいものが主であった。言葉とジェンダーに関する研究では、言葉の含意にある ジェンダー(e.g., 男泣き)や、男性や女性を表す言葉(e.g., 英雄、お転婆)等について考察されてきたが(佐々木,2000)、心理学の研究では個々の特性語が注目されることは少ない。たとえば、男性性は作動性、女 性性は協調性に相当するとされ(Bakan, 1966)、また、下位概念についても、因子分析によって多数の特性語の中から男性性因子や女性性因子を抽出して、まとまった概念として捉えられてきた (e.g., 伊藤,1978)。しかし、概念としてまとめてしまえば、特性語が日本語であることによる独自の特徴が見落とされる可能性がある。また、心理学の尺度で は、社会的に望ましい男性性・女性性特性が取り上げられる傾向があるが(e.g., Bem,1976; 伊藤,1978)、偏見との関わりを検討するには肯定的・否定的の両方の特性が必要になる。以上を踏まえ、ジェンダー・ステレオタイプ特性語を選出することにした。
 
1.3 調査の概要
 
本研究では、社会通念としてのジェンダー・ステレオタイプの知識、その知識を個人の持つジェンダー・ステレオタイプとして認知する程度、及びジェンダー に関する偏見がどのように関係するかを検討するために、質問紙調査を行った。まず、検討に用いる特性語として、ジェンダー・ステレオタイプとして認知され る程度の強い特性語を選出し、男性・女性ステレオタイプ特性語リスト(各10語)を作成した。質問紙では、各特性語に関する男性・女性ステレオタイプ知識 度や個人の考えとしての男性・女性ステレオタイプ認知度、及び回答者のジェンダーに関する偏見度について測定した。その結果に基づいて、特性語リストの構成概念の妥当性や信頼性について検討した後、ジェンダー・ステレオタイプに関する知識と個人の考え、及びジェンダーに関する偏見との関係を検討した。
2.調査方法
2.1 回答者と実施日時
 
大学生186名(男性122、女性63、不明1、平均年齢19.32歳)を対象として、2005年5月に調査を実施した。
 
2.2 男性・女性ステレオタイプ特性語リストの作成手順
 
本研究で使用する男性・女性ステレオタイプ特性語リストを2段階の手順により作成した。手順1では、WilliamsとBest(1982)のジェン ダー・ステレオタイプ調査と同様の方法により100語のジェンダー・ステレオタイプ特性語を抽出した。その中でもジェンダー・ステレオタイプとして認知さ れる程度が強いものを手順2で選出し、男性・女性ステレオタイプ特性各10語のリストを作成した。
 
2.2.1 手順1:特性語の抽出
 
大学生225名(男性117, 女性104, 不明4, 平均年齢20.4歳)を対象として、2004年12月に調査を行った。200の特性語が、男性・女性に典型的な特性に関する社会通念として、「男性」と 「女性」のどちらにあてはまると思うかを2択で判断するよう求めた。その際いずれにも判断できない場合には空欄にするように指示した。Williams & Best (1982)では300語の特性形容詞を使用していたが、それらの邦訳注2、さらにBSRI(Bem Sex Role Inventory; Bem, 1974)やMHF (Masculinity-Humanity-Femininity)スケール(伊藤, 1978)で用いられている特性語の中で重複しないものを集めて200語とした。Williams & Best(1982)に基づき、「男性」と「女性」のいずれかにあてはまると答えた回答者が67%以上注3いる特性語を ジェンダー・ステレオタイプとみなした。男性ステレオタイプ特性語60語と女性ステレオタイプ特性語40語の計100語のジェンダー・ステレオタイプ特性語を抽出した。
 
2.2.2 手順2:特性語リストの作成
 
大学生140名と短大生76 名(男性74、女性142、平均年齢20.3歳)を対象として、2005年1月に調査を行った。手順1で抽出された100語のジェンダー・ステレオタイプ 特性語についての一般的ステレオタイプ認知度、及び社会的な望ましさを尋ねた。
 
特性語の一般的ステレオタイプ認知度の測定として、各特性語について、男性・女性にあてはまる典型的な特性に関する社会通念として「男性」と「女性」の ちらにどのくらいあてはまるかを5点尺度で回答を求めた(1=とても「男性」にあてはまる、2=少し「男性」にあてはまる、3=どちらともいえない、4= 少し「女性」にあてはまる、5=とても「女性」にあてはまる)。特性語の社会的望ましさの測定として、各特性語が一般的にどのくらい好ましいとされると思うかを5点尺度で回答を求めた(1=全く好ましくない、2=好ましくない、3=どちらともいえない、4=好ましい、5=とても好ましい)。男性得点・女性 得点の高いほうから、また、社会的望ましさ得点がプラス・マイナス両方向の特性語が同数となるように、男性ステレオタイプ特性語、女性ステレオタイプ特性 10語を選出した。表1には、男性・女性ステレオタイプ特性語リスト、及び各特性語の男性・女性得点と社会的望ましさ得点を示した。
 
表1 男性・女性ステレオタイプ特性語リスト、及び尺度得点の平均値
男性ステレオタイプ特性語リスト
特性語 男性得点

社会的望ましさ

たくましい -1.31 0.78
威厳のある -1.24 0.60
頼りがいのある -1.08 1.22
乱暴な -1.03 -1.41
荒々しい -1.03 -0.76
支配的な -0.93 -0.79
野心的な -0.89 0.19
冒険心がある -0.85 0.66
デリカシーのない -0.84 -1.27
がんこな -0.83 -0.83

女性ステレオタイプ特性語リスト
特性語 女性得点

社会的望ましさ

話し好きな 1.11 0.64
優雅な 0.96 0.87
迷信を信じやすい 0.95 -0.50
おせっかい 0.91 -0.47
感動しやすい 0.85 0.48
愛嬌のある 0.83 1.04
わがままな 0.74 -1.11
嫉妬深い 0.74 -0.95
気がきく 0.63 1.29
疑い深い注4 0.63 -0.52

(注:尺度点を平均し、さらに-2.5(「男性にあてはまる」)から2.5(「女性にあてはまる」)の値をとるように変換して、各特性語の男性ステレオタ イプ認知得点(マイナス方向)・女性ステレオタイプ認知得点(プラス方向)とした。社会的望ましさ得点は、プラスの値は望ましい方向、マイナスの値は望ま しくない方向を示す。)
 
特性語を選出するにあたり、リストの中で特性に関して重複がないように、意味が類似し、男性・女性ステレオタイプ得点及び社会的望ましさの得点が近いものを除いた。例えば、男性ステレオタイプ特性の「支配的」と「独裁的」は意味が重なっており、また男性得点も社会的望ましさ得点も近い数値であったため、男性得点の低い「独裁的」のほうを除外した。さらに、言葉自体にジェンダーが含意にあるものは、特性に関するジェンダー・ステレオタイプではなく、男性・ 女性と直接結びついた表現になってしまうため除いた。例えば、「かわいい」は女性がよく用いる言葉(女性語)とみなされ(Lakoff, 1973)、「色気がある」の「色気」には言葉自体に「女」の意味が含まれるため注5 除外した。
 
2.3       調査項目
 
質問紙において、ジェンダー・ステレオタイプの知識度(男性・女性ステレオタイプ知識度)と、その知識を個人の考えとしての認知する程度(個人的男性・ 女性ステレオタイプ認知度)、及びジェンダーに関する偏見度(ジェンダー偏見度)を測定した。男性・女性ステレオタイプ知識度の測定として、男性・女性ス テレオタイプ特性語リストの各特性語について、社会通念として「男性」、「女性」それぞれにどのくらい典型的かどうかを7点尺度で尋ねた(1=「全くあて はまらない」、4=「どちらともいえない」、7=「とてもよくあてはまる」)。この変数は、社会通念としての男性・女性ステレオタイプ的知識をどのくらい もっているかを反映しているため、男性ステレオタイプについての結果を「男性ステレオタイプ知識度」、女性ステレオタイプについての結果を「女性ステレオ タイプ知識度」とした。
 
個人的な男性・女性ステレオタイプ認知度の測定として、各特性語について、個人的な意見として「男性」、「女性」のどちらにどのくらいあてはまると考えるかについて7点尺度で判断を求めた(1=「とても男性にあてはまる」、4=「どちらともいえない」、7=「とても女性にあてはまる」)。この変数は、社 会通念における男性・女性ステレオタイプを個人の考えとしても認知しているかを反映しているため、男性ステレオタイプについての結果を「個人的男性ステレ オタイプ認知度」、女性ステレオタイプについての結果を「個人的女性ステレオタイプ認知度」とした。なお、数値に関して、男性ステレオタイプ特性語に関す る結果を反転し、値が高いほど「男性」にあてはまると判断したことを示すようにした。したがって、男性ステレオタイプ特性語に関して、個人的男性ステレオ タイプ認知度は数値が高いほど「男性」にあてはまると判断し、女性ステレオタイプ特性語に関して個人的女性ステレオタイプ認知度は数値が高いほど「女性」 にあてはまると判断したことになる。特性語の提示順に関して、順序効果を相殺するために半数の質問紙では特性語の提示順序を逆にしてカウンター・バランス をとった。
 
ジェンダーに関する偏見度の測定として、性差観スケール(伊藤, 1997)に回答を求めた。この尺度は、男女が様々な点で異なることを個人としてどのくらい認識しているかを測定するもので、「男性と女性は本質的に違 う」、「女性は、男性にくらべ感情的である」等の30項目について、(4点尺度:1=「そう思わない」、2=「どちらかというとそう思わない」、3=「ど ちらかというとそう思う」、4=「そう思う」)。この尺度は、個人がどのくらい男性や女性に対して偏った見方をしているかが反映されているため、回答値の 合計得点を各回答者の「ジェンダー偏見度」とした。
3. 結果と考察
はじめに、男性・女性ステレオタイプ特性語リストが、一般に共有されているジェンダー・ステレオタイプの特徴を捉えたものかどうか(概念的妥当性)、ま た、一貫してまとまった概念を捉えているかどうか(信頼性)について検討した。その後、本研究のリサーチ・クエスチョンであるジェンダー・ステレオタイプ に関する知識と個人の考え、及びジェンダーに関する偏見との関係について検討した。
 
3.1 特性語リストの妥当性と信頼性
 
男性・女性ステレオタイプ特性語リストの概念的妥当性を確認するために、各特性語について、男性ステレオタイプ知識度と女性ステレオタイプ知識度の間に差があるかどうかを、対応のあるt検定を行い検討した。これは、ジェンダー・ステレオタイプが、一般に一方の性別によりあてはまると考えら れている特性と定義されることに基づいていた(Williams & Best, 1982)。男性ステレオタイプ特性語リストでは、語すべてにおいて男性ステレオタイプ知識度のほうが、女性ステレオタイプ知識度よりも有意に高いことが 確認された(ts(185)>9.94, ps<.001)。また、女性ステレオタイプ特性語リストでも、 10語すべてにおいて女性ステレオタイプ知識度のほうが、男性ステレオタイプ知識度より有意に高いことが確認された(ts(185)>8.80, ps<.001)。この結果より、本研究で選出されたジェンダー・ステレオタイプ特性語リストの概念的妥当性が確認されたといえる。
 
また、男性ステレオタイプ特性語リストの男性ステレオタイプ知識度、および女性ステレオタイプ特性語リストの女性ステレオタイプ知識度についてクロンバックの信頼性係数を求めたところ、それぞれ.94と.89と十分に高い値であった。このため、各特性語リストの信頼性も確認された。
 
3.2 知識、個人の考え、偏見の関係
 
男性・女性ステレオタイプ特性語の各リストにおいて、回答者個人の男性・女性ステレオタイプ知識度の平均値を求め、個人がどのくらい社会通念として男性・女性ステレオタイプの知識を持っているかという指標とした。また、同様に、各特性語リストにおける個人的男性・女性ステレオタイプ認知度を平均して、 社会通念としての男性・女性ステレオタイプをどのくらい個人の考えとして認知しているかという指標にした。
 
以上の個人変数と、ジェンダー偏見度との間にどのような関係がみられるかについて相関係数を求め、表2に示した。まず、男性・女性ステレオタイプ知識度と個人的男性・女性ステレオタイプ認知度の間にはそれぞれ有意な正相関がみられた。一方、個人的男性・女性ステレオタイプ認知度とジェンダー偏見度には有意な正相関がみられたが、男性・女性スレオタイプ知識度とジェンダー偏見度はほぼ無相関であった。なお、すべての変数と回答者の性別には有意な相関関係はみられなかった。
 以上の結果より、個人がジェンダー・ステレオタイプの知識を持っているほど、その知識を個人の持つジェンダー・ステレオタイプとして認知する傾向があることがわかった。しかし、ジェンダー・ステレオタイプの知識を持っているということが、直接にジェンダーに関する偏見を持つ傾向と結びついているわけでは なかった。ジェンダーに関する偏見を予測するのは、ジェンダー・ステレオタイプの知識を個人の考えとしても認知する傾向であることが示唆された。
 
表2 ジェンダー・ステレオタイプ知識度、
個人的ジェンダー・ステレオタイプ認知度、及びジェンダー偏見度の相関
  男性ステレオタイプ知識度 女性ステレオタイプ知識度 個人的男性ステレオタイプ認知度 個人的女性ステレオタイプ認知度 ジェンダー偏見度
男性ステレオタイプ知識度 1.00 0.42** 0.27** 0.22* 0.01
女性ステレオタイプ知識度 - 1.00 0.33** 0.48** 0.04
個人的男性ステレオタイプ認知度 - - 1.00 0.57** 0.28**
個人的女性ステレオタイプ認知度 - - - 1.00 0.23**
ジェンダー偏見度 - - - - 1.00

(注:*は有意確率0.05、**は0.01の有意な相関を表す。)

4.まとめ
本研究では、社会通念としてのジェンダー・ステレオタイプの知識、その知識を個人の持つジェンダー・ステレオタイプとして認知する程度、及びジェンダー に関する偏見の関係について、質問紙調査により検討した。その結果、ジェンダー・ステレオタイプの知識を持っているほど、その知識を個人の考えとして認知 する傾向があることが示された。一方で、その知識を持っていても、ジェンダーに関する偏見に必ずしも結びついているわけではなく、その偏見を予測するのは、ステレオタイプの知識を個人の考えとして認知する傾向であることが示唆された。
 
  1. 本研究は、文末形式のジェンダーが話者の与える印象に及ぼす影響についての実験研究(有泉・山口,2006)において、男性性・女性性の印象 を測定する項 目選出のために行われた調査(有泉・山口,2005)を、新たなリサーチ・クエスチョンのもとで分析と考察を行ったものである。本文に戻る
  2. 一語に必ずしも一訳ではなく、多くは複数の訳語を列挙し、その中で意味が特に類似したものや日本語として不自然なものを除いた。ただし、意味 が似ていても 肯定・否定の違いがあるなど、表現に異なる含意があるものは残した。本文に戻る
  3. 空欄の回答者も割合の算出に含まれる。本文に戻る
  4. 「疑い深い」は、これまでの研究ではskepticalの訳語として男性ステレオタイプ特性とみなされてきた(Williams & Best, 1982)。本研究で「疑い深い」が女性ステレオタイプとみなされたのは、欧米におけるskeptical(疑い深い)が考えの深さ(「何でも鵜呑みにし ない」等)と結びつくのに対し、日本語の「疑い深い」は人間関係の文脈で人の言動や誠実さ等を信じないという意味で捉えられたためと考えられる。本文に戻る
  5. 広辞苑第5版によると、「色気」の第三番目の意味は「女っ気」である。本文に戻る
参考文献
  • 青木篤子・森永康子・土肥伊都子(1999)『ジェンダーの心理学』ミネルバ書房
  • 有泉優里・山口勧(2005)ジェンダー・ステレオタイプ特性語リストの作成 第46回社会心理学会大会発表論文集,656-657.
  • 有泉優里・山口勧(2006)会話文末形式のジェンダー:男性形式・女性形式の対人印象効果 第17回社会言語科学会大会発表論文集,210 -213.
  • BAKAN, David. (1966) The duality of human existence, Chicago: Rand McNally.
  • BEM, Sandra L. (1974) The measurement of psychological androgyny, Journal of Counseling and Clinical Psychology, 45, 196-205.
  • DEVINE, Patricia G. (1989) Stereotypes and prejudice: Their automatic and controlled components, Journal of Personality and Social Psychology, 56, 5-16.
  • 伊藤裕子(1978)性役割の評価に関する研究『教育心理学研究』26,1-11.
  • 伊藤裕子(1997) 高校生における性差観の形成環境と性役割選択:性差観スケール(SGC)作成の試み『教育心理学研究』45,366-404.
  • 唐沢 穣 (2001) 集団の認知とステレオタイプ、唐沢穣・池上知子・唐沢かおり・大平英樹(編)『社会的認知の心理学:社会を描く心の はたらき』ナ カニシヤ出版,105-127
  • 広辞苑、第5版(1998)岩波書店
  • LAKOFF, Robin (1973) Language and women’s place, Language in Society, 2, 45-80.
  • 佐々木瑞枝(2000)『女と男の日本語辞典(上巻)』東京堂出版 
  • 潮村公弘(2004)ステレオタイプと偏見、岡隆(編)『社会的認知研究のパースペクティブ』倍風館,85-100
  • WILLIAMS, John E. & BEST, Deborah E. (1982) Measuring sex stereotypes: A thirty-nation study, Beverly Hills, CA: Sage.

(有泉優里 ありいずみゆかり 東京大学大学院人文社会系研究科)

 
 
 
Copyright © 2001 The Society for Gender Studies in Japanese
All Rights Reserved.