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学会誌5号:論文6(泉)

アンドロジニー概念の再考とBSRIの妥当性の検討

泉 亜由美

要約:本研究の目的は①日本版BSRIの妥当性の検討をすること,②BSRIと本研究の比較をすることであった。日本版BSRI60項目を用い,大学生315 名に質問紙調査を行った。①については,男性性,中性性,女性性の内容は現代の日本の青年期における性役割観を測定できているといってよい。しかし 本来中立的に作られた中性性の質問項目に社会的望ましさの男女差がみられる項目があり,性役割観の変容をうかがわせた。②については,現在男性にとって望ましいと考えられているものと女性にとって望ましいと考えられているものの差は少なくなってき ていることが示唆された。また,男性自身は男性にとって女性性よりも男性性を望ましいと思っているのに対して,女性自身にはその差がなく,男性は自分自身 に引き続き伝統的な性役割観をもっているが,女性は現在の過渡期的な性役割観を表すように,自分自身の性にとって望ましいものに対して流動的な見方をして いることがうかがわれた。今後の課題として,アンドロジニーをより正確に測定し得る性役割スケールを考案する。特に修正の必要が検討される中性性については,男性性でも女性性で もないどういった特性を表すものであるか,アンドロジニーの概念との関係性も考慮し,明確な概念的再構成がなされることが求められる。

キーワード:アンドロジニー,BSRI,性役割観,中間性

1. はじめに

男らしさと女らしさに関する論議は,男あるいは女という生物学的な性別に結び付けて展開された時代が長く続いた。それぞれの生物学的性にふさわしいとさ れる男らしさと女らしさという両極的な性役割を取得しパーソナリティが形成されることが,健全な社会化の過程において必要であると考えられていた。またこ れらの男らしさと女らしさについての両極的な考え方は,産業革命が起き工業化した社会において「男は仕事,女は家庭」という性別役割分業が確立されたこと によって,さらに深く社会に流布することになったのではないかと考えられる。

2. 問題

2‐1.性差に関することばの定義

まず男らしさと女らしさについて考えたとき,現在、性差に関することばには様々なものがある。例えば生物学的性,ジェンダーなどである。これらのことば はしばしば混乱を招くため,本研究で主要な概念に関わることばについてまとめておく必要があろう。

  • 生物学的性:セックスとも呼ばれ,生物学的な差異に基づく性差。これまで生物学的性は男女という二分法に立っていたが,最近の医学などの分野で,生物学的 性でさえも厳密に二分できないことは半陰陽(hermaphrodism)の研究でも明らかにされている。
  • ジェンダー:文化的・社会的な価値観が絡みついたときに生じる社会的性差。
  • 性役割:それぞれの性に対して社会的に期待される行動様式や態度の総称。日常的には男らしさ,女らしさともいわれる。
  • 男性性:男性に対して社会的に期待される行動様式や態度の総称。男らしさ。
  • 女性性:女性に対して社会的に期待される行動様式や態度の総称。女らしさ。
  • 心理的両性具有性(Androgyny):男らしさと女らしさの文化的定義に対応する自己概念を合わせもっている,あるいはジェンダーにふさわしいと文化 的に定義される内容とまったく一致しない自己概念を持っていること(Bem,S.L.,1999)。

先に述べた生物学的性とジェンダーの定義については,最近では異なった見方も示されている。ジュディス・バトラー(1994,1995)のようにジェン ダーは単にあらかじめ与えられたセックスに対する文化的な意味の書き込みというだけでなく,ジェンダーはまさにセックスそのものを生産する文化装置である といったジェンダー概念や,また,セックスも様々な科学的言説によって構成されているため「自然なるもの」「言説以前のもの」という特権的な立場を付与さ れた「作られたもの」に他ならないという立場も示されている。これらの立場においてセックスが文化的な領域のものであるかどうかについては議論の余地があ るが,ここでは生物学的な性差をセックス,文化的・社会的な性差をジェンダーと区別することにとどめる。

2‐2.男らしさと女らしさの測定

はじめに述べたような社会的背景の中で,心理学の分野で男らしさと女らしさを測定するために最初に作られたのが,ターマンとマイルズのM-Fテスト (1936)である。その後もハザァウェイらのMF尺度(1943)などの性役割スケールあるいは性度検査が次々に開発されてきた。これら初期のものに共 通していることは,男性性と女性性を具体化し,一次元の両極に位置づけ,男性に典型的であるか,女性に典型的であるかを測定するものであったということで ある。男性的であると測定されればすなわち女性的でないとされ,女性的であると測定されればすなわち男性的でないとされ,男性的でもあり女性的でもあるこ とはあり得ないとされていたのである。

しかし1970年代に入り,フェミニズムの台頭や女性の社会進出などによる社会変動に伴って,これまでの男らしさと女らしさについて疑問が呈されるように なったことは周知の通りである。このフェミニスト思潮の影響を受けて,新たな視点を備えた性役割スケールが開発されるようになった。まずベムによって「ベム性役割調査目録(Bem Sex Role Inventory)(Bem,S.L.,1974)」(以下BSRIと略す)が発表される。その後1974年と1975年にかけてスペンスらのPersonal Attributes Questionnaire (以下PAQと略す),1976年にヘイルブランのThe Masculinity-Femininity Scale of the Adjective Ahjecklist(以下ACLと略す)などが開発された。

2‐3.アンドロジニー(Androgyny:両性具有性)

これまで述べてきたように男らしさ,女らしさについて長い間確立していた一次元的な見方に対する新たな挑戦として,アンドロジニーに関する理論的・実証 的研究がなされるようになる。そもそもアンドロジニーとは,古代ギリシャのことばでandro(男性)とgyn(女性)からできており (Heilbrun,C.G.,1964),1人の人間が男性性も女性性も共に合わせもつ概念のことである。この概念は男らしさと女らしさを2つの独立し た次元としてとらえ,それぞれの性にふさわしいと社会的に付与された言動を解放しその場に応じた言動をとり得ることを提唱した点で非常に画期的であった。

しかし,アンドロジニー概念はジェンダーの不平等を理論化していないことや,結局はジェンダーの両極化を再生産するなどの批判を受けることになる。また BSRIの尺度構成上の問題点なども指摘された。これらの批判を受け,ベムは研究の焦点をアンドロジニーからジェンダー・スキマティシティへ変えている が,ベム自身アンドロジニーを決定的に否定するまでの批判を見出すまでには至っていないと述べている(Bem,1999)。先述のような批判はあるが,ア ンドロジニーがこれまでにフェミニスト理論家たちに対して,さらに今日でも一人の男性としてあるいは女性としてどのように振る舞ったらよいのか混乱してい る多くの人々に対して,理想的な状態を考えるための視点や精神健康のモデルを提供していることは明らかである(Bem,1999)。また,これまで様々な 研究においてもアンドロジニーと心理的適応の積極的な関係について示されてきた。近年の性役割観の多様化によって,性役割をとらえるうえで,男女という既 成の枠組みでとらえることは必ずしも有効ではないことは既に検証されており(泉,2002),これからの性役割観においてアンドロジニーの概念は有用であ り注目すべきであると考える。

2‐4.わが国における性役割観の動向

近年,性役割についての考え方が多様化し,日本でも深く根付いていた「男は仕事,女は家庭」という伝統的性別役割分業意識は崩れつつあるかに見える。し か し,その一方でわが国における男性の育児休業取得率は0.42%と極めて小さく(厚生労働省,1999),男は仕事,女は家事も育児も仕事も」という状況が依然として続いている。

福本,泉(2003)が述べているように,従来の性役割の枠から出ようとしない生き方が存続することは,男性にとっての人生が結局は仕事だけのものに なっ てしまう危険性を意味しているともいえる。このことは,一個の人間として決して望ましいとは言い難い生き方である。また男女共同参画社会を迎えた現在(いま),従来の男性の生き方は,男性自身を人間的に豊かで自立した生き方から引き離すだけでなく,女性の自立と自由な生き方の妨げにもなっているともいえる のである。このようなわが国における性役割観の動向を鑑み,性別よりも“一人の人間として”どう生きるかが問われる中で,男らしさと女らしさの文化的定義 に対応する自己概念を合わせもっている,あるいはジェンダーにふさわしいと文化的に定義される内容とまったく一致しない自己概念を持っている(Bem, S.L.,1999)アンドロジーニアスな人についての再考を行うことは研究的意義が深いと考えられる。

3.目的

以上を承けて,本研究では次のことを目的とする。

目的① アメリカでもアンドロジニーの研究に最も多く用いられ,日本国内でも広く用いられている日本版BSRI(安達,上地,浅川,1985)の妥当性の 検討をすること。日本版BSRIが現在の日本の青年期においても適用可能か否かを明ら かにしたい。BSRIおよび日本版BSRI考案の際に大学生を対象としているため,本研究においても同様に大学生を対象として検討することとした。

目的② BSRIと本研究の比較をすること。およそ30年前にアメリカで作成されたBSRIと本研究を比較することで,変容しつつある性役割観を知る手が かりにしたい。

これら2点について検討する。また,日本版BSRIの吟味やBSRIとの比較を通して,青年たちが抱く現代の日本社会の性役割に対するイメージの現状に つ いての示唆を得ることができるのではないかと考える。伝統的性別役割分業意識が崩れ,性役割観が多様化しつつある,いわば性役割観の過渡期とも言うべきこの時期に,性役割観の現状を把握しておくことは意義深い研究課題と考えられる。

4.方法

4‐1.調査内容・回答法

日本版BSRIを用いる。すなわち,男性性特性を示す20項目,中性性特性を示す20項目,女性性特性を示す20項目の計60項目(附表1附表2)。 回答は,以下に示す2通りである。「次にでてくることばは,日本の社会において,男性にとって,どれくらい望ましいと考えられていると思いますか。」(こち らの質問紙を「向男性質問紙」と呼ぶ)および,「次にでてくることばは,日本の社会において,女性にとって,どれくらい望ましいと考えられていると思いま すか。」(こちらの質問紙を「向女性質問紙」と呼ぶ)である。対象者は合計120項目について1「非常に望ましくない」,2「あまり望ましくない」,3 「やや望ましくない」,4「どちらでもない」,5「やや望ましい」,6「かなり望ましい」,7「非常に望ましい」の7段階評定で回答する。

4‐2.調査対象者

東京都内A大学の学生,愛知県内B大学の学生,その他。回収については,授業時等に集団的調査を行った。回答を得た対象者数は,A大学136名,B大学 147名,その他32名。計315名。

4‐3.調査対象者の属性
男性:126名。年齢は18歳から30歳で,平均年齢は20.0歳(SD3.18歳)であった。
女性:187名。年齢は18歳から30歳で,平均年齢は19.0歳(SD1.36歳)であった。
中間性注11名,無回答1名。今回の報告では,データ数の関係上この2名についてはデータから割愛することとし,男性と女性から得られた回答のみを用い 分析を行うことにする。

4‐4.調査時期
2002年6月から7月。

5.結果と考察

 向男性質問紙(60項目)についての,男性性,中性性,女性性各得点の平均値と標準偏差を附表1に,向女性質問紙(60項目)についての,男性性,中性性,女性性各得点の平均値と標準偏差を附表2に示す。

5‐1.目的①日本版BSRIの妥当性の検討についての結果と考察
(1) 因子分析
まず項目全体の構造を知るために,因子分析を行う。向男性質問紙,向女性質問紙,それぞれの全回答データにもとづいて,因子分析を行い主因子解を求めて プ ロマックス回転を行った。注2向男性質問紙60項目については,抽出された3因子までで全分散の42.78%が説明された(Table1)。向女性質問 紙60項目については,抽出された3因子までで全分散の50.41%が説明された(Table2)。安達ら(1985)と比較すると中性性と女性性の項目 内容にやや違いが見られるが,不適切な項目を除けばほぼ類似した結果を得ており,ここでは安達ら(1985)と同様の命名をすることにする。向男性質問紙 の第1因子は男性にとって望ましいと考えられている男性性であるので「男性性M」,第2因子は男性にとって望ましいと考えられている中性性であるので「中性性M」,第3因子は男性にとって望ましいと考えられている女性性であるので「女性性M」と呼んで用いることにする。注3同様に,向女性質問紙の第1因 子は女性にとって望ましいと考えられている男性性であるので「男性性F」,以下,第2因子は「女性性F」,第3因子は「中性性F」と呼んで用いることにする。注4

(2) 信頼性分析

本研究における各尺度それぞれの内的整合性を検討するために信頼性分析を行った。その結果をTable3に示す。男性性M(α=.9485),男性性F (α=.9584),中性性M(α=.8847),中性性F(α=.9025),女性性M(α=.8894),女性性F(α=.9374)と全尺度につい て信頼性が得られている。

(3) 社会的望ましさの男女差

各質問項目(60項目)について,向男性質問紙と,向女性質問紙の平均値の差の検定を行った(Table4)。その結果,Table4に示すように,男性性(20項目)については,全項目に関して女性よりも男性の方が有意に望ましいと考えている。また同様に,女性性(20項目)についても,全項目に関し て男性よりも女性の方が有意に望ましいと考えていることが分かる。中性性(20項目)については,女性よりも男性の方が有意に望ましいと考えられている項 目が5項目,男性よりも女性の方が有意に望ましいと考えられている項目が7項目,有意な差がみられなかった項目が8項目であった。日本版BSRIでは中性 性は社会的望ましさの点で男女差がない項目からなっていたため,本研究とは結果が異なっている。

(4)考察

本研究の1つめの目的である目的①日本版BSRIの妥当性の検討についての考察を述べる。因子分析,信頼性分析,社会的望ましさの男女差の分析の結果か ら,日本版BSRIの男性性,中性性,女性性の内容は,大まかなところでは現代の日本の青年期において適用に妥当な項目で構成されていると考えることができる。

社会的望ましさの男女差の分析(Table4)では,男性性については全項目に関して女性よりも男性の方が,女性性については全項目に関して男性よりも 女 性の方がそれぞれ有意に望ましいと考えられていた。因子分析では,男性性M,男性性Fと女性性M,女性性Fは日本版BSRIとほぼ同様の結果を得,信頼性 も高かった。つまり男性性(20項目)と女性性(20項目)は,今の日本の青年期において,男性,または女性にとって望ましいと考えられている性役割観を 表しているといえる。本研究においては,中性性M,中性性Fの間に,社会的望ましさの男女差がみられる項目が含まれていることが明らかとなった。本来中立 的な項目であるべき中性性に男女差がみられたことは,性役割観が変容してきていることをうかがわせる。

5‐2.目的②BSRIと本研究の比較についての結果と考察

次にBSRIと本研究の比較をするため,Bem,S.L.(1974)と同じ分析を行うことにする。30年前にアメリカで作成されたBSRIと本研究の データを比較することは,BSRIの各時代における尺度としての吟味をするうえで基本的な分析として重要であると思われる。それと同時に,比較文化的なア プローチでよく用いられるように,時代や国の異なるデータを比較することによって,本研究においては性役割観の推移を知り得る手がかりともなり,これから の性役割観を展望することにも寄与しうるものと考える。
 BSRIとの比較において,比較の結果現れる差に関する原因が,時代が異なるからなのか,国が異なるからなのか等,様々な要因が考えられることが予想さ れ る。そのような本研究のデータのみでは解釈しきれない要因もあることに配慮しつつ,本研究ではBSRIと同年代の対象者という点で条件を統制し,その条件 の範囲内においてBSRIと比較を行うものとする。したがって本研究で述べる結果は,考えられる様々な要因のうちのひとつであり,今後他の要因についての 検討が必要であることをここで確認しておきたい。

(1)<男女別>社会的望ましさの男女差

「5‐1.(3)社会的望ましさの男女差」で各項目(60項目)について,向男性質問紙と,向女性質問紙の平均値の差の検定を行ったが (Table4), それをさらに男性の回答,女性の回答別に分けて,社会的望ましさの男女差の検定を行う(Table5)。また,Bem,S.L.(1974)の結果を Table6に示す。本研究(Table5)とBem,S.L.(Table6)を比較するとどちらにおいても,男性の回答,女性の回答ともに,男性性に おいては女性よりも男性にとって有意に望ましく,女性性においては男性よりも女性にとって有意に望ましいと考えられていることが分かる。しかし本研究 (Table5)とBem,S.L.(Table6)の平均値の差をみると,Bem,S.L.(Table6)よりも本研究(Table5)の方が平均値 の差がいずれも小さくなっている。

したがって,Bem,S.L.(1974)の時よりは社会的望ましさの男女差が小さくなってきている可能性が考えられる。現在,男性にとって望ましいと 考 えられているものと女性にとって望ましいと考えられているものの差は少なくなってきているのではないかと考えられる。「5‐1.(4)考察」で述べたが, 青年期の性役割観の現状として伝統的な男女の概念的形式(ジェンダーステレオタイプ)をいまだ残しながらも,ここでは性別よりもむしろ一人の人間として自 己や他者をとらえていこうとする性役割観の変化の兆候をうかがうことができたのではないだろうか。

(2)<男女別>自分自身の性における社会的望ましさ

本研究とBem,S.L.(1974)を比較するうえで,特に注目すべきであるのは<男女別>自分自身の性における社会的望ましさについてである。全 データを男女別にし,向男性質問紙の男性性Mと女性性Mの平均値の差の検定,および向女性質問紙の女性性Fと男性性Fの平均値の差の検定を行う (Table7)。同様に,Bem,S.L.(1974)の結果をTable8 に示す。Bem,S.L.(1974)では男性自身が男性にとって望ましい と思う男性性は女性性よりも有意に高く,また女性自身が女性にとって望ましいと思う女性性は男性性よりも有意に高かった(Table8)。しかし,本研究 では男性自身が男性にとって望ましいと思う男性性Mは女性性Mよりも有意に高かったが,女性自身が女性にとって望ましいと思う女性性Fと男性性Fには有意 差が見られなかった(Table7)。
つまり,男性自身は男性にとって女性性よりも男性性を望ましいと思っているのに対して,女性自身にはその差がないことが分かった。Bem,S.L. (1974)と比較すると,男性は自分自身に対して引き続き伝統的な性役割観をもっているが,女性は現在の過渡期的な性役割観を表すように,自分自身の性 にとって望ましいものに対して流動的な見方をしていることがうかがわれる。一般に男性より女性の方が意識の変化が大きく,平等志向も強いといわれるが,本 研究でもその傾向が示唆されたのではないだろうか。この点が,Bem,S.L.(1974)の結果と大きく異なるところである。

(3)考察

本研究の2つめの目的である,目的②BSRIと本研究の比較についての考察を述べる。Table5とTable7の結果をまとめると,男性性Mは,現段 階でも非常に固定的な安定した尺度であり,現在の日本の青年期においても男性性の尺度として充分弁別力が高いと考えることができる。

一方,女性性Fは,男女別で分析した場合に,女性の女性性Fと男性性Fには有意差が見られず(Table7),女性の中で自分自身の性に対する社会的望 ま しさの認知が変容しつつあるといえる。また向男性質問紙の項目の因子分析(Table1)でも,女性性を示す因子の項目内容や,不適切な項目がやや多く含 まれていることからも,女性性の変容をうかがうことができる。このことから現時点においては,女性性については尺度としての信頼性も高く (Table3),現在の日本においても適用可能であるが,今後再検討の余地はあると考えてよい。

中性性に関しては,これまでの因子分析(Table1,Table2)などの結果を総合的に考えて,項目の追加修正が必要であると考えられる。現在の性役 割観が過渡期的な状態であることからも,BSRIの中での中性性はより重要な特性となりうるであろう。

6.今後の課題

本研究での結果をもとに,以下に述べる点についてBSRIを改良することが期待される。BSRIの改良すべき点としては,「5‐2.(3)考察」でも述 べ たように,BSRIがこれからの日本により適合した性度テストとして用いられるために,女性性については項目を再検討することが求められる。中性性につい ては,Bem,S.L.(1974)での社会的望ましさをあらわす項目に,どのような項目を追加修正していくかを模索することは今後の課題といえる。 BSRIでは,ややもすると中性性がアンドロジニーと混同されがちである。中性性が,男性性でも女性性でもないどういった特性を明らかにするためのもので あるのか,また,アンドロジニーの概念との関係性も考慮したうえで明確な概念的再構成がなされることが必要となってくるであろう。またアンドロジニー的な 生き方とは,男性でも女性でもないどっちつかずな生き方なのではなく,男性としても女性としても振舞える豊かな選択肢をもてる生き方であるということを改 めて確認したい。BSRIの中性性をより現在の日本に適合したものにしていく過程は,これからの新たな性役割観を展望することにも繋がってゆくと考えられ る。

またBSRIの中性性項目を再検討するとともに,筆者は近年考案されているISRI(伊藤,1986)なども参考にして,アンドロジニーをより正確に測 定 しうる新たな性役割スケールの考案を試みている。それは,男性性と女性性の合成得点でアンドロジニーを測定したBSRIと異なり,男らしさと女らしさの文 化的定義に対応する自己概念を合わせもっている,あるいはジェンダーにふさわしいと文化的に定義される内容とまったく一致しない自己概念を持っているとい うアンドロジニーを直接的に測定することが可能な尺度である。筆者によって考案された尺度項目は以下の10項目である(泉,2005)。

  • 日常生活において,性別にとらわれず行動するほうである
  • “女性向け”と思われている役割・仕事をすることに抵抗がある
  • “男性向け”と思われている役割・仕事をすることに抵抗がある
  • 自分は男らしい部分と,女らしい部分の両面を合わせもっている
  • 自分は,男性,女性という性別にとらわれず一人の人間として生活していると思う
  • 男性っぽい言動をとる女性に違和感をおぼえる
  • 女性っぽい言動をとる男性に違和感をおぼえる
  • 自分は状況に合わせて,強く主張することも,人に従うこともできる
  • 自分に子どもがいたら,父親の役割も母親の役割も場合によってはできると思う
  • 自分は育児・家事も仕事もうまくできるタイプだと思う

泉(2005)の調査で上記10項目の因子構造分析,BSRIのアンドロジニー得点との相関分析,尺度としての信頼性分析などが行われた結果,下記4項 目 をアンドロジニースケールとして妥当なものとして選定した。ここで新たなアンドロジニースケールを提案し,今後汎用化,実用化に向けてさらに予備調査をす すめることを今後の課題とする。

アンドロジニースケール(泉,2005)

  1. 日常生活において,性別にとらわれず行動するほうである
  2. 自分は男らしい部分と,女らしい部分の両面を合わせもっている
  3. 自分は,男性,女性という性別にとらわれず一人の人間として生活していると思う
  4. 自分は状況に合わせて,強く主張することも,人に従うこともできる
7.謝辞

本稿の執筆にあたり,直接のご助言,ご指導いただきました日本女子大学家政学部教授福本俊教授に心よりお礼申し上げます。また,調査にご協力くださった 学生のみなさまに感謝申し上げます。

  1. 筆者らの最近の調査においては,質問紙内の性別についての質問項目に関して,性の3区分を提唱している。男性,中間性,女性である。生物学的性は, 男性あるいは女性という2分法では不十分であるという考え方にもとづいている。本文に戻る
  2. バリマックス回転とプロマックス回転を行ったが,因子間の相関が高かったので,プロマックス回転による結果を用いることにした。本文に戻る
  3. 各因子名の後ろには,向男性質問紙を表すM(male)をつけた。本文に戻る
  4. 各因子名の後ろには,向女性質問紙を表すF(female)をつけた。本文に戻る
参考文献
  • 安達圭一郎,上地安昭,浅川潔司:男性性・女性性・心理的両性性に関する研究(Ⅰ)―日本版BSRI作成の試み―,日本教育心理学会第27回総会発表論文 集,484―485,(1985)
  • Bem,S.L.:The measurement of psychological Androgyny,Journal of Consulting and Clinical Psychology,42(2),155-162,(1974)
  • サンドラ L. ベム,福富護訳:ジェンダーのレンズ,川島書店,(1999)
  • 福本俊,泉亜由美:Home Straight Study(HOSS)事始め,日本女子大学紀要 家政学部,51,61-67,(2003)
  • Heilbrun,C.G. :Toward a Recognition of Androgyny,W.W.Norton & Company,New York,Ⅹ,(1973)
  • 伊藤裕子:性役割特性語の意味構造―性役割測定尺度(ISRS)作成の試み―,教育心理学研究,34(2),168-174,(1986)
  • 泉亜由美:性役割観についての研究―BSRIの妥当性の吟味と新たな性役割観の展望―,日本女子大学大学院紀要 家政学研究科・人間生活学研究科,8, 53-58,(2002)
  • 泉亜由美:性役割観についての研究 第3報―“Androgynyな生き方”と“一人の人間として生きること”の包括的な尺度作成の試み―,日本女子大学 大学院紀要 家政学研究科・人間生活学研究科,11,(2005)
  • ジュディス・バトラー,荻野美穂訳:セックス/ジェンダー/欲望の主体,思想,12,岩波書店,(1994)
  • ジュディス・バトラー,荻野美穂訳:セックス/ジェンダー/欲望の主体,思想,1,岩波書店,(1995)
  • 厚生労働省(1999)
附表1 向男性質問紙の各項目,および男性性,中性性,女性性の平均値と標準偏差本文へ
質問項目 平均値 標準偏差 N 特性 平均値 標準偏差 N
1. 統率力のある 5.63 1.12 314 男性性 5.71 0.81 304
2. 積極的な 5.62 1.04 313
3. やる気のある 5.88 1.11 313
4. 判断力のある 6.17 1.02 313
5. 自己主張のできる 5.63 1.11 313
6. たくましい 5.73 1.19 313
7. 頼りがいのある 6.14 1.02 313
8. 信念のある 5.84 1.16 313
9. 意志の強い 5.80 1.11 314
10. 力強い 5.53 1.22 314
11. 指導力のある 5.42 1.16 314
12. 独立心のある 5.43 1.26 313
13. 行動力のある 5.89 1.00 313
14. 決断力のある 5.99 1.02 313
15. 男らしい 5.33 1.39 313
16. 自立した 5.79 1.14 314
17. 勇敢な 5.65 1.18 313
18. 精神的に強い 5.76 1.16 313
19. 明確な態度のとれる 5.58 1.12 312
20. 冒険心のある 5.04 1.18 314
21. 人情味のある 5.41 1.20 314 中性性 3.87 0.39 312
22. 正直な 5.49 1.25 314
23. 画一的な 4.05 1.41 314
24. 快活な 5.36 1.12 314
25. 地道な 4.91 1.24 314
26. おろかな 2.34 1.29 314
27. 陰うつな 2.07 1.09 314
28. おおらかな 5.32 1.09 314
29. 理解を示す 5.51 1.15 313
30. 協調性のない 2.29 1.23 314
31. ふまじめな 2.22 1.25 314
32. 軽率な 2.09 1.15 314
33. 社会性のある 5.32 1.24 314
34. つまらない 2.46 1.24 314
35. 不道徳な 1.88 1.15 314
36. 心のせまい 1.92 1.07 314
37. 誠実な 5.74 1.11 314
38. 怠惰な 2.23 1.18 314
39. ユーモアのある 5.37 1.08 314
40. 誰に対しても平等に接することのできる 5.37 1.27 313
41. 母性のある 4.22 1.13 314 女性性 4.78 0.67 305
42. 明るい 5.50 1.04 313
43. ちゃめっけのある 4.73 1.18 313
44. 思いやりのある 5.96 0.97 314
45. 純粋な 5.09 1.21 314
46. 人に尽くす 4.57 1.22 311
47. 女らしい 2.84 1.34 314
48. 繊細な 3.86 1.27 311
49. 親切な 5.53 1.05 313
50. 素直な 5.33 1.18 313
51. 子どもをかわいがる 5.58 1.20 313
52. 謙虚な 4.94 1.32 313
53. 人に気をつかう 5.06 1.16 313
54. 慎み深い 4.65 1.21 313
55. しとやかな 3.81 1.22 313
56. 愛きょうのある 4.96 1.17 313
57. やさしい 5.87 1.10 312
58. もの静かな 3.86 1.25 312
59. あたたかい 5.60 1.10 313
60. 従順な 3.76 1.33 313
附表2 向女性質問紙の各項目,および男性性,中性性,女性性の平均値と標準偏差本文へ
質問項目 平均値 標準偏差 N 特性 平均値 標準偏差 N
1. 統率力のある 4.95 1.19 309 男性性 5.10 0.91 306
2. 積極的な 5.30 1.07 309
3. やる気のある 5.65 1.12 309
4. 判断力のある 5.71 1.08 309
5. 自己主張のできる 5.44 1.18 309
6. たくましい 4.42 1.47 309
7. 頼りがいのある 5.11 1.19 309
8. 信念のある 5.60 1.17 309
9. 意志の強い 5.61 1.16 308
10. 力強い 4.29 1.42 309
11. 指導力のある 4.99 1.25 309
12. 独立心のある 5.06 1.33 309
13. 行動力のある 5.47 1.14 309
14. 決断力のある 5.48 1.16 307
15. 男らしい 3.40 1.42 309
16. 自立した 5.24 1.20 309
17. 勇敢な 4.64 1.33 309
18. 精神的に強い 5.58 1.14 309
19. 明確な態度のとれる 5.46 1.14 309
20. 冒険心のある 4.54 1.29 309
                 
21. 人情味のある 5.61 1.11 308 中性性 3.89 0.39 300
22. 正直な 5.74 1.10 309
23. 画一的な 3.92 1.44 308
24. 快活な 5.54 1.13 308
25. 地道な 5.04 1.25 309
26. おろかな 2.02 1.13 306
27. 陰うつな 1.98 1.08 306
28. おおらかな 5.54 1.16 305
29. 理解を示す 5.62 1.17 306
30. 協調性のない 2.21 1.23 305
31. ふまじめな 2.03 1.12 306
32. 軽率な 2.03 1.18 306
33. 社会性のある 5.48 1.23 305
34. つまらない 2.45 1.15 306
35. 不道徳な 1.81 1.05 306
36. 心のせまい 2.01 1.13 306
37. 誠実な 5.62 1.16 306
38. 怠惰な 2.26 1.24 306
39. ユーモアのある 5.29 1.12 306
40. 誰に対しても平等に接することのできる 5.67 1.22 306
41. 母性のある 5.95 1.13 306 女性性 5.44 0.77 301
42. 明るい 5.85 1.06 306
43. ちゃめっけのある 5.50 1.13 306
44. 思いやりのある 6.10 0.96 305
45. 純粋な 5.60 1.15 305
46. 人に尽くす 4.99 1.36 306
47. 女らしい 5.39 1.31 306
48. 繊細な 5.12 1.25 306
49. 親切な 5.87 1.00 306
50. 素直な 5.70 1.04 306
51. 子どもをかわいがる 6.05 1.11 306
52. 謙虚な 5.11 1.23 306
53. 人に気をつかう 5.34 1.12 307
54. 慎み深い 5.10 1.12 307
55. しとやかな 5.11 1.21 307
56. 愛きょうのある 5.61 1.04 306
57. やさしい 6.02 0.96 306
58. もの静かな 4.28 1.18 306
59. あたたかい 5.88 1.02 306
60. 従順な 4.24 1.44 306
Table1 社会的望ましさの男女差の検定本文へ
特性 質問項目 男性にとって望ましい(M)   女性にとって望ましい(F) t値  
男性性 1. 統率力のある 5.63 4.95 8.68 ***
2. 積極的な 5.62 5.30 4.47 ***
3. やる気のある 5.88 5.65 3.72 ***
4. 判断力のある 6.17 5.71 7.56 ***
5. 自己主張のできる 5.63 5.44 3.02 **
6. たくましい 5.73 4.42 13.22 ***
7. 頼りがいのある 6.14 5.11 12.62 ***
8. 信念のある 5.84 5.60 3.55 ***
9. 意志の強い 5.80 5.61 2.99 ***
10. 力強い 5.53 4.29 12.96 **
11. 指導力のある 5.42 4.99 5.33 ***
12. 独立心のある 5.43 5.06 5.26 ***
13. 行動力のある 5.89 5.47 6.44 ***
14. 決断力のある 5.99 5.48 7.34 ***
15. 男らしい 5.33 3.40 16.62 ***
16. 自立した 5.79 5.24 7.78 ***
17. 勇敢な 5.65 4.64 12.07 ***
18. 精神的に強い 5.76 5.58 2.70 **
19. 明確な態度のとれる 5.58 5.46 2.16 *
20. 冒険心のある 5.04 4.54 6.45 ***
               
中性性 21. 人情味のある 5.41 5.61 -3.06 **
22. 正直な 5.49 5.74 -3.49 **
23. 画一的な 4.05 3.92 2.03 *
24. 快活な 5.36 5.54 -2.86 **
25. 地道な 4.91 5.04 -1.65 *
26. おろかな 2.34 2.02 5.06 ***
27. 陰うつな 2.07 1.98 1.79 **
28. おおらかな 5.32 5.54 -3.60 ***
29. 理解を示す 5.51 n.s. 5.62 -1.40  
30. 協調性のない 2.29 n.s. 2.21 1.40  
31. ふまじめな 2.22 2.03 3.27 **
32. 軽率な 2.09 n.s. 2.03 0.60  
33. 社会性のある 5.32 5.48 -2.25 *
34. つまらない 2.46 n.s. 2.45 0.35  
35. 不道徳な 1.88 n.s. 1.81 1.23  
36. 心のせまい 1.92 n.s. 2.01 -1.18  
37. 誠実な 5.74 5.62 1.72 *
38. 怠惰な 2.23 n.s. 2.26 -0.45  
39. ユーモアのある 5.37 n.s. 5.29 1.22  
40. 誰に対しても平等に接することのできる 5.37 5.67 -4.55 ***
               
女性性 41. 母性のある 4.22 5.95 -20.58 ***
42. 明るい 5.50 5.85 -6.67 ***
43. ちゃめっけのある 4.73 5.50 -10.8 ***
44. 思いやりのある 5.96 6.10 -2.61 *
45. 純粋な 5.09 5.60 -7.42 ***
46. 人に尽くす 4.57 4.99 -5.41 ***
47. 女らしい 2.84 5.39 -21.7 ***
48. 繊細な 3.86 5.12 -14.86 ***
49. 親切な 5.53 5.87 -6.08 ***
50. 素直な 5.33 5.70 -6.00 ***
51. 子どもをかわいがる 5.58 6.05 -7.85 ***
52. 謙虚な 4.94 5.11 -2.47 *
53. 人に気をつかう 5.06 5.34 -4.67 ***
54. 慎み深い 4.65 5.10 -6.52 ***
55. しとやかな 3.81 5.11 -14.01 ***
56. 愛きょうのある 4.96 5.61 -9.32 ***
57. やさしい 5.87 6.02 -2.66 **
58. もの静かな 3.86 4.28 -5.65 ***
59. あたたかい 5.60 5.88 -4.81 ***
60. 従順な 3.76 4.24 -5.89 ***
n.s.:nonsignificant, ***:p<0.001, **:p<0.01, *:p<0.05

 

Table2  <男女別>社会的望ましさの男女差本文へ
項目 男性の回答の平均値(n=126) 女性の回答の平均値(n=187)
男性性 女性性 中性性 男性性 女性性 中性性
男性にとって望ましい(M) 5.62 4.74 3.86 5.77 4.81 3.86
女性にとって望ましい(F) 4.79 5.48 3.87 5.32 5.41 3.90
平均値の差 0.83 0.74 0.01 0.45 0.60 0.04
t 9.78*** -10.43*** -0.24 7.12*** -11.69*** -1.69
***:p<0.001

 

Table3  Mean social desirability ratings of the Masculine, Feminine, and
Neutral items(Bem,S.L.,1974)本文へ
Item Male judges Female judges

Masculine

item

Feminine

item

Neutral

item

Masculine

item

Feminine

item

Neutral

item

For a man 5.59 3.63 4.00 5.83 3.74 3.94
For a woman 2.90 5.61 4.08 3.46 5.55 3.98
Difference 2.69 1.98 0.08 2.37 1.81 0.04
t 14.41*** 12.13*** 0.17 10.22*** 8.28*** 0.09
***:p<0.001

 

Table4  <男女別>自分自身の性における社会的望ましさの差の検定本文へ
項目

男性にとって望ましいと思う(M)

男性の回答の平均値

女性にとって望ましいと思う(F)

女性の回答の平均値

男性性 5.61 5.30
女性性 4.76 5.42
平均値の差 0.85 0.12
9.50*** -1.71
***:p<0.001

 

Table5  Mean social desirability ratings of the Masculine and Feminine
items for one's own sex(Bem,S.L.,1974)本文へ
Item Male judges for a man Female judges for a woman
Masculine 5.59 3.46
Feminine 3.63 5.55
Difference 1.96 2.09
11.94*** 8.88***

***:p<0.001

(泉亜由美 いずみあゆみ 日本女子大学大学院生)

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