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学会誌2号:年次大会研究発表(林)

【日本語ジェンダー学会第2回年次大会】

意思決定のプロセスとジェンダー

ー 会議場面における「ね」のコミュニケーション機能 ー

林 千賀

 
0.  はじめに
意思決定とは「情報を決定に変換するプロセスである」と定義されている(宮川1994)。意思決定の場としてオフィスにおいてはどのような活動が行われているのだろうか。たとえば会議はもっとも重要な意思決定の場であり、会議で提案されるべき案の検討のために思索したり、データを分析したり、連絡したりする。オフィスにおいては業務活動だけでなく、多くは意思決定活動のために時間を費やしている(高橋1995)し、意思決定のプロセスにおいて協議と意見の交換を重んじなければならない(茅野1994)。
 
円滑なコミュニケーションが行われる為には、お互い歩み寄ったり、相手の発話に同意したり、確認しあったりする相互作用が働く。本稿では、誰が意思決定をするのかという視点ではなく、意思決定されるまでのプロセスを会議の「談話」として捉え、会議場面においてどのように議題が決定されていくのかを「ね」のコミュニケーション機能の観点から考察することとする。また、円滑なコミュニケーションを維持するためのストラテジーとしての「ポライトネス」と、いかにかかわってくるのかということについても考察する。そのため、本稿では、宇佐美(1999)の「『ね』のコミュニケーション機能とディスコース・ポライトネス」で使用された分析方法と同じ枠組を使用して会議の場面においてコミュニケーション上、「ね」がどのような機能を果たすのか実際の会話における「ね」の運用から分析し、最後にジェンダーとの関わりについて述べる。
 
1.  先行研究
宇佐美(1999)が指摘しているように今までの「ね」の分析は益岡(1991)の言う「内在的意味」の研究であり、実際の会話においては「表現効果」という見方で研究されなければならず、宇佐美は後者の見方をしている。従って本稿では、まず、「内在的意味」としてこれまで、どのように捉えられてきたか概観した上で、「表現効果」としての「ね」のコミュニケーション機能を捉え考察された宇佐美(1999)の研究を、取り上げる。「内在的意味」とは、いわゆる終助詞の「ね」を本質的意味として捉えた研究である。
 
「情報のなわ張り論」で神尾は「ね」の機能は、「現在の発話内容に関して、話し手の持っている情報と聞き手の持っている情報とが同一であることを示す必須の標識である。」と述べている(神尾1996 p62)。「ね」を使用することによって柔らかな感じを与え相手の発話に呼応して相手との一体感を感じさせる。つまり、仲間意識、連帯感を与える要素であるとも述べている(神尾1996)。このような観点から神尾は、「ね」は基本的に同一の要素であるとまとめたのである。つまり、話し手が発話を丁寧なものにしようと望むか否か、また、どのような情報をもっているかによって「ね」の使用が決定されるのであると「ね」を包括的に捉えた。
 
しかし、本稿では、意思決定が行われると予測される会議の場面においてどのような「ね」が使用されているか分析するため「ね」の機能を詳細に分類しすることとする。また、「ね」の研究はさまざまな視点から述べられているため、本稿では、「ね」を4つの内在的意味に分類し、述べることとする。そして宇佐美(1999)の「ね」のコミュニケーション機能と比べながら、宇佐美の行なった調査結果について述べる。
 
1.1  「ね」の内在的意味
 
1) 確認(認識のギャップのうめあわせ、念おし(陳1997、北野1993
聞き手の認識にたよって、または、聞き手の前で話し手が自分の認識をたしかなものにする時、使用する。また、話し手が自分の認識よりも聞き手の認識のほうが確かだと考えることについて、自分の認識を聞き手の認識と一致させる時、使用する(陳1987) 。念おしというのは、聞き手に確かめるのであるから、「か」を使ってもいいが、「か」の場合よりも思いやりのある表現となる。
[1] あしたいらっしゃいますね。(陳の例文)  
 
2) 同意(お互いの確かめ合い)(北野1993)
a) 同意を求める(陳1987)
[2] いい夜だね。(陳の例文)
[3] それにしても遅いねえ。(陳の例文)
b) 同意を示す(陳1987、大曽1986)
[4] 本当ですね。(陳の例文)
[5] そうですね(え)。(大曽の例文)
c) 働きかけの文と「ね」(仁田(1991),西山(1997), 陳(1987)):
 「働きかけ」や「すすめ」の文に使用される。
[6] たくさん、食べて下さいね(勧め+ね)(西山の例文)
[7] そうだ、海に行こうね(誘いかけ+ね)(西山の例文)
 
3) 話し手の情報(聞き手が知らない情報を伝達する)(陳1987、金水1993、片桐1995):
話し手だけが経験した事実や話し手の考えなど、あきらかに話し手のほうが聞き手よりよく知っていることについて述べる時使用する(陳1987)。
[8]僕は希望なんてもっていないね。(陳の例文)A: 今何時ですか。 B: ええと、7時ですね。(金水の例文)
[9]ちょっと銀行に行ってきますね。(片桐の例文)
[10]*A:あなたのお名前は?B:山本太郎です(?ね)(金水の例文)
陳(1987)は、「よ」の場合とくらべると、「よ」の場合は話し手の認識は確乎としていて、聞き手がその情報を知ることが必要であるという話し手の判断によって聞き手にその情報を伝える時に使用され, 「ね」の方が、聞き手も「なるほど」と思ってくれるだろうという同感の期待があるように思えると述べている。北野(1993)は、この表現は、発話確認の「ね」として扱っているが、本稿ではあえて、「確認」や「同意」とは別に扱うこととする。また、これらの使用に関しては?のような制限がある(金水1993)が、ここでは触れないことにする。
 
4) 感動動詞、間投用法(川成1995,伊豆原1994)):
これらは、文頭、文中、文末に現れる、持ちかけ、引き込み、一体化、共有化、同意、確認の機能をもっているが、ここでは、1.や2.とは区別して扱うこととする。
[11]土曜日ね、悪いけどね、だめになったんだよ。(川成の例文)
[12]あのー今度の土曜日の件ね。(川成の例文)
また、「ね」の機能は、実際にイントネーションにも依存する(片桐1995)。イントネーションが上昇するか下降するかによって意味合いが変わってくるが、本稿ではあえて扱わないこととする。
 
1.2.「ね」のコミュニケーション機能とポライトネス
 
まず、宇佐美の研究は、Brown & Levinsonのポライトネス理論に基づかれている。「他者に理解・共感されたいという欲求」としてのポジティブ・フェイス、「他者に邪魔されたくない、たちいられたくないという欲求」としてネガティブ・フェイスとし、この二つの基本的欲求としてのフェイスを脅かさないように配慮することが、ポライトネスであると捉えている。そしてそれぞれのストラテジーをポジティブ・ポライトネス、ネガティブ・ポライトネスと呼んでいる(宇佐美1999,宇佐美2001)。宇佐美(1999)の研究ではディスコース・ポライトネスという観点から「ね」を分析しており、「ね」のコミュニケーション機能として、円滑な会話に最も基本的であると考えられる以下の5つに分類した。
①会話促進 ②注意喚起 ③発話緩和 ④発話内容確認 ⑤発話埋め合わせ
 
1) 会話促進 内在的意味=「同意」などが含まれる
宇佐美は、これを「話し手が対話相手と意見・考えなどを共有するものと想定することによって相手との一体感を示したり、相手の発話に同意を示すことで聞き手に対する連帯感や肯定的態度を示すもの」としている(p.248)。文レベルでは命題の内容に対して「同意」を求める「ね」は、談話レベルでは、むしろ「全体的には、あなたと同じような考えである」ということを表すことによって、会話を促進する機能を持っているつまり、「会話促進機能」を持っていると述べている(宇佐美1999)。そしてこの用法は「相手に共感を示す」ポジティブ・ポライトネスであるとしている。
 
2) 注意喚起(話し手中心用法) 内在的意味=「間投表現」などが含まれる
宇佐美は、これを「話し手が聞き手を自分の話題に引き込むために、自分の発話を強調したり、相手の注意を喚起するものであり、聞き手が同じ情報をもっているか否かという判断も必要ない。」としている(p.259)。「会話促進」も相手を会話に引き入れようとしているが、違いは、この用法の場合「ね」を取り去っても文意が変わったり、ぎこちなくなることはない。
 
3) 発話緩和(聞き手中心用法) 内在的意味=「話し手の情報」などが含まれる
宇佐美は、これを「話し手が、聞き手が知らないであろうと判断する情報を提供するときにも用いられ、あえて「ね」を用いて聞き手との情報の共有性を示唆することによって、発話を緩和する機能を果たしている。」と述べている(p.251)。この緩和表現は任意で、取り去った場合、話し手が自分の意見を言い切った印象を与えるため、「ね」をつけなければ失礼になる場合がある(宇佐美1999)。これらの「ね」は、聞き手の感情を配慮して、自分の発話を和らげるものであり、これらには口調を和らげることによってネガティブ・ポライトネスを高める働きがあるとしている(宇佐美1999)。
 
4) 発話内容確認 内在的意味=「確認」
宇佐美は、これを「話し手が自分の発話の内容に確信を欠く場合に、聞き手に確認するもの。」(p.252)としている。
 
5) 発話埋め合わせ 内在的意味=「間投表現」
「話し手が、発話中に不確実な言語表現のために言いよどんだ時は、次の表現を計画する時間を稼ぐための間を埋め合わせるため、また、会話のギャップを埋めたりするために挿入される言葉(フィラー)に附随するもの。」としている(宇佐美p.253)。通常、「です」に附随して「?ですね」という埋め合わせ表現として用いられる。これらは、話し言葉においての「ね」の特徴でもある。これらは、「注意喚起」より敬体「です」をつけて丁寧度を高め、言葉を選んで話す会議などにおける発言の間を埋め合わせる時に使用される。これは、発話を緩和するネガティブ・ポライトネスが働いていると考えられている(宇佐美1999)。
[14]えーっとですねー(宇佐美の例文)
[15]入稿はですね(宇佐美の例文)
 
1.3.宇佐美(1999)の「ね」のコミュニケーション機能の研究と結果
宇佐美は「女性のことば・職場編」という共同研究における実際の会話データから会議と休憩時の雑談の場面において「ね」を5つのコミュニケーション機能別に頻度と割合を分析し、ポライトネスの観点から述べた。分析対象は実際の会話から三人の協力者である女性の「ね」を取り出し(実際の会話には男性の発話もあるがデータの対象とはしなかった)、その機能がどのようなものか分析した。
 

表1 場面ごとのコミュニケーション機能別「ね」の頻度-合計(宇佐美1999, p.257)

場面機能
機能
会議 雑談
頻度 割合 頻度 割合
①会話促進 8 9.0 37 63.8
②注意喚起 3 3.4 15 25.9
③発話緩和 34 38.2 0 0
発話内容確認 14 15.7 5 8.6
発話埋め合わせ 30 33.7 1 1.7
「ね」の総数 89 100 58 100
その結果(表1)、「会議」の場面では、③の「発話緩和」の機能(話し手の情報)(38.2%)と⑤の「発話埋め合わせ」(33.7%)と④の「発話内容確認」(15.7%)の機能の割合が全体の87.6%を占めており、①の「会話促進」や②「注意喚起」はあまり使われていなかったことがわかった。それに対し、「雑談」の場面では、①の会話促進(同意)(63.8%)の割合が断然多く、次に②の注意喚起(間投表現)(25.9%)の割合が多いことがわかった。つまり、会議というフォーマルな場面と、休憩時の雑談というカジュアルな場面の違いによって、同一の人物が異なるコミュニケーション機能を持つ「ね」を使い分けている事が分かわかった。会議の場面では、③の「発話緩和」の機能の相手の知らない情報を「ね」を使用することによって緩和させたり、「えーっとですね」など⑤の「発話の埋め合わせ」の用法が使用される。また、ポライトネス・ストラテジーの観点からの分析では、会議の場面では、③の発話緩和と⑤の発話埋め合わせが使用されることから、それらは、ネガティブ・ポライトネスで、雑談での用法に多く使用されている①の「会話促進」や②の「注意喚起」は、ポジティブ・ポライトネスであると述べている。つまり、ネガティブ・ポライトネスのストラテジーを使用することによって言語表現はあらたまった言い方となり、ポジティブ・ポライトネスを使用することによってカジュアルな表現を使用していることがわかり、場面にあわせて発話する「ね」の機能が異なっているというのである。本稿では、宇佐美の研究結果を踏まえて会話を分析してみるのだが、その前にジェンダーの観点からみた終助詞の「ね」について述べておく。
 
1.4.ジェンダーの観点からみた終助詞の「ね」
 
ジェンダーの観点からみた終助詞の用法には、話し手の性差が大きく影響すると述べられてきた。「ぞ」「ぜ」「さ」「な」は、男性専用の終助詞であり、「わ」は女性的である。マグロイン(1997)は、レイノルズの終助詞の分類で、断定をあらわすのが「ぞ」「ぜ/さ」「よ」「わ」で、確認が「な」と「ね」としている。そして女性が使えるのは、「よ」「わ」「ね」などのように主張度の低いものであるとしている。そして「女性は社会的に男性より低い立場にあるので、自己の主張を強く相手に押しつけるような表現は使えないのである。」とまとめている(マグロイン1997p.34)が、近年の女性の社会進出を考えるとこのようなことも進化しているように思われる。承知のように「ね」は男女とも用いられるわけであるが、女性の方が頻度が高いと言われて来た。しかし、その反対の調査結果もある。川成(1995)は、「ね」は、話し手と聞き手の意向が一致するとの判断を表す形式であり、「よ」は、対立する判断を表す形式であるとし、これを裏づける調査をおこなった。日本人大学生男女各50人を対象に依頼文「ね」の使用頻度を調べた結果600発話中、「ね」は男性発話者62個、女性発話者49個と、男性の方が多かった。男女差の頻度の結果だけで考えると、調査によって女性の方が頻度が高かったり、低かったりする。調査目的によって頻度差が異なるとすれば、ジェンダー研究において頻度の結果より、誰が、どのような時、どうやって使用するのかという追求が必要になるのではないだろうか。
2.調査方法
本稿では、宇佐美(1999)がおこなった分析で使用されたデータと同じもの(フロッピーイデスクが公開されている)から、会議の場面で「意志決定」がなされるまでのプロセスと考えられる談話をデータから選び、どのようなコミュニケーション機能があるのか分析することとする。宇佐美は頻度の割合を分析する量的分析であったが、本研究は、「ね」にどのようなコミュニケーション機能があるか会話データから概観し、考察するので、量的な分析ではないことを断っておく。
 
また、枠組は宇佐美と同じ①会話促進、②注意喚起、③発話緩和、④発話内容確認、⑤発話埋め合わせの機能から観察することとする。上の5つの機能に分類するため、宇佐美のコミュニケーション機能に分類する時の判断と筆者の判断が同じになるように宇佐美の結果の数値と筆者の数値が一致するよう他のデータを資料に練習を幾度かおこなった。また、宇佐美(1999)の研究対象と異なる点は、宇佐美は協力者のみ(女性)に限ったことであり、談話からその女性の発話だけを取り出したものとなった。従って、談話の断片的側面だけをとりあげた資料となった。本稿では、談話をそのまま、取り上げるので他の女性や男性の発話も分析の対象となる。なぜなら、意思決定されるまでのプロセスを談話として捉え、その談話がどのように行なわれているのかを終助詞の「ね」のコミュニケーション機能を分析することによって明らかにしようと試みたためである。従って、本稿の調査目的は、男女差を明らかにすることではない。また、資料についての概要は以下の通りである。宇佐美は三人の協力者からの会議と雑談のデータを分析しているが、本稿では三人目の協力者コード17の会話の中から、意思決定のプロセスにおいての意見交換の談話を取り出し、分析することとする。ある事柄を参加者全員によって決定するという談話である。また、この談話の発話者の背景は、女性の方が地位が高く、男性の方が地位が低いという特殊な場合かもしれないが、女性の社会進出が進むなか、このような場面は昔ほど特殊ということでもなくなってきているだろう。しかし、男性が上司で女性が部下で、部下が意見を述べるというこのパターンの逆の談話との比較も必要ではあるが、残念ながら本稿では女性が上役というパターンに限る。
 
場面:会議
協力者コード17(公開されているデータには19人の協力者がいる) 談話の概要:同僚と雑誌の特集に関する打ち合わせ。調査協力者が特集内容を提案、説明し、それに対する意見などが出され、決定する。
 

発話者の属性:

記号:
↑:イントネーションの上昇
★ :発話の途中で、次の話者の発話が始まった場合、次の話者の発話が始まった時点をこう示す。
→:前の話者の発話に重なった部分の始まりを示す。
←:前の話者の発話に重なった部分の終わりを示す。
-:長音の表記(語尾を長くのばした発音
確固内:発話途中の聞き手のあいづちは、( )に入れて示す(ひとつの発話が終了したあいづち的発話は独立した発話として扱う。
(詳細については、「女性のことば・職場編」第1章を参照のこと、またデータに関しては公開されている)
 
 
3.結果と考察
 
<データ>
17A10282:まあ、そういうことも含めてちょっと、いろいろ意見をだして、いただけたらと思います。
17A10283:以上です。
17B10284:はい。
17B10285:じゃあ、皆さん、意見、なり質問なり、出してください。
17C10286:そうですねー[ア]、あのー、日米の養成講座がまあ、今期でつぶれるってゆうのは、原因がどこにあるかと考えてみると、きっとね、[イ]あの、養成講座をでても就職口がないんじゃないか(うんうん(女))と思うんですよね。[ウ]
17B10287:そうですね。[エ]
17A10288:書いてありますね、[オ]うん。(この場合の状況、把握不可能につき推測)
17C10289:それがいちばん大きい点だと思うので、養成講座をでてから就職するまでは、(うんうん(女))のことを、どっかで触れたほうがいいんじゃないか(うん(女))と思いますねー。[カ]
17A10290:その後(ご)ですね。[キ]
17C10291:えー、中身ばっかり触れるんじゃなくて、養成講座をでたあとどうなるのか(うーん(女)ってゆうの、★触れとかないと。 17A10292:→そっ、こ、ですね。[ク]
17A10293:つまり、そうですね。[ケ]
17A10294:でたあとの、多少その、希望の持てる部分をー★ちょっと、だしたほうがいいですね。[コ]
17C10295:→そうですね。[サ]←
17C10296:かい、書いた方がいい。
 
まず、副編集長である17A(このA(女性)が宇佐美の研究対象となった人物であり、話者B(女性)や話者C(男性)は対象外であった)の会話10282で、ある議題についての話しが始まっている。これらの談話を宇佐美の枠組に分類すると次のようになる(表2)。また、発話が誰なのかカタカタの横にA,B,Cで記した。(括弧内は、コミュニケーション機能に含まれると判断された「ね」の内在意味を示したもの)
 
 
以上のように議題についての進行役でもある女性のAは、①の会話促進をしたり、④の発話内容確認をしたり、⑤の発話の埋め合わせの「ね」を使用している。三人の中では一番社会的地位の高いBは①の会話促進の「ね」を使用した。そして、自分の意見を述べていた男性のCは③の発話緩和が他の二人より多く、②の注意喚起や⑤の発話埋め合わせの「ね」を使用していた。つまり、「ね」を使用することによって緩和させながら、自分の意見を述べていたのである。この談話の内容は、副編集長のA(女性)が議題を提出し、役職のないC(男性)が意見を述べるというものであった。従って、談話内容とコミュニケーション機能の「ね」の使用が一致していることになる。つまり、談話における話者の役割(例えば、議題の進行役、意見を言う者、会話を促進する者)や打ち合わせ(会議)という場面がコミュニケーションの「ね」の機能に反影していると言えるのではないだろうか。言い換えれば、コミュニケーションの「ね」を分析することにより、談話上の話者の役割が推測できるということになる。しかし、データは量的に分析されているわけではないので断定は出来ないが、今後の課題として、談話で「ね」の機能を分析することにより、意志決定のプロセスにおいて談話上の話者の役割と一致するという仮説を量的研究により実証を試みたい。
 
次にこの結果を支持するような分析を行なった。上記の分析は協力者コード17の一部を分析したものであったが、ここで全体を捉えることとする。コード17の会議の場面における談話の「ね」の使用を機能別に分析してみた(表3)。会議場面では、話者A が議題について参加者に同意を求めながら、議題を提案し、議題についての経緯を説明している。そして、議題についての意見交換が行なわれるという大きく3つの場面に分類することができる。先の分析は、最後の談話「意見交換」の場面からの談話である。
 
表3 協力者コード17の会議場面における「ね」の機能(頻度を省く)

談話の概要:「議題の提案」場面 →→Aによる「説明(報告)」場面 →→[意見交換]場面
A:①、③ A:③、⑤ A:①、③、⑤
B:① B:なし B:①
C:なし C:なし C:①、②、③、⑤
D:③、④ D:なし D:なし
この機能の分析を談話の内容と比較してみると、次のようになる。まず、「議題の提案」の談話では、話者Aは参加者に同意を求めながら、議題の提案を行なっている。それは、話者A が①(会話促進)、③(発話緩和)のコミュニケーション機能の「ね」を使用していることからもわかる。そして編集長の話者Bは同意しながら、その議題を進めている。編集長の話者Bは①(会話促進)のコミュニケーション機能の「ね」を使用した。話者Dは、意見を述べたり、話者Aの提案を確認したりしている。従って、③(発話緩和)、④(発話内容確認)のコミュニケーション機能を使用している。次に、話者Aのこれまでの経緯を説明する「報告」の談話では、話者Aがほとんど1人で、議題についての経緯を会議の参加者に説明している。従って、「ね」の使用も話者Aのみとなっている。最後に「意見交換」の談話が上記の談話データ(表2)である。意見交換の場面では、話者Cによって議題に対する提案が述べられている。つまり、話者A は、①(会話促進)、③(発話緩和)、⑤(発話埋め合わせ)のコミュニケーション機能を使用し、話者Bは①を使用している。そして話者Cは①(会話促進)、②(注意喚起)、③(発話緩和)、⑤(発話埋め合わせ)のコミュニケーション機能を使用している。
 
このコード17の会議場面では、副編集長の話者Aが議題の進行役を勤め、編集長の話者Bが会話を促進する役割を持ち、話者CとDが意見を述べるという役割が「ね」のコミュニケーション機能を分析することによって判明することができるということがわかった。
 
また、注目すべき点は、会議の場面で多く使用される③の発話緩和の機能である。これらは、「ね」が省かれても文意はかわらない。また「よ」を代入することも可能である。しかし「ね」を使用することによって自分の発話を緩和させ、相手に「私はこう思うが、どうですか」という意味を保持しているので、話し手は聞き手に言わば「おうかがいを立てつつ」発話していることになる。つまり、聞き手に対して直接的な言い回しを避け、聞き手を尊重する態度を示すと北野(1993)は述べている。従って「ね」が付加された場合、やわらかな印象を与える。これは宇佐美の見方と神尾のいう日本語の聞き手と話し手の「なわ張り」との共通点があると言えよう。鈴木(1997)によれば、聞き手に関わる事柄について、聞き手への丁寧さに対する配慮を持ち、聞き手の領域に踏み込まず、決定権を話し手の事柄に発話は女性語になるとしていることから、このような表現は女性的であると言えるかもしれないが、このようなあらたまった場面や、自分の意見を言ったりする場面において使用に対して、男女差がみられるだろうか。
 
また、宇佐美(1999)の研究では、女性の発話のみに焦点が置かれていたわけであるが、これらを談話で捉え、上司が男性で部下が女性で、部下が意見と述べるという本稿の条件と逆の場合では、どう変わるのか宇佐美の枠組と同じ方法で分析し比較することによって、本研究では、追求できなかった男女差が探究できるのではないだろうか。これは今後の課題とすることとする。
 
しかし、女性の社会進出が増加している今日では、このような「会議」などの打ち合わせの場面において当然、男女参加もあるわけで、ジェンダーの視点で「ね」を分析するのではなく、役割や社会的地位を捉えた視点で分析しなければならないのではないかと考える。
 
また、「ね」は女性の使用頻度が高いと言われてきたことについて宇佐美(1999)は、異なるコミュニケーション機能を持つ「ね」が、同一話者においても場面に応じて、著しい使い分けがなされていることから、「ね」についても、それをコミュニケーション機能という観点から捉え直して分類し、場面差なども考慮しなければ、単なる「ね」の使用頻度の男女の比較等の価値も半減してしまうと、ただ単に頻度を調べる分析法について問題提起をしている。
 
先にも少し述べたように、鈴木(1997)は、聞き手に関わる事柄について、話し手が決定権を保持する発話はすべて男性的となるのに対し、聞き手への丁寧さに対する配慮を持ち、聞き手の領域に踏み込まず、決定権を話し手の事柄に発話は女性語になるとしている。このことから考えれば、「ね」は女性語となる。従来は、ジェンダーの観点から女性語に顕著なものとされてきたものでも、特に意思決定に関わる場面では、社会的地位や場面に左右されるのではないだろうか。従って、「会議場面での意思決定のプロセスにおける「ね」のコミュニケーション機能のジェンダーの不在」という仮説が考えられる。本稿の調査は、そのためのパイロット分析となった。この仮説を立証するためにも、談話分析によって数量的有意差の有無を示さなければならだいだろう。
まとめ
本稿では、意思決定がオフィスの会議の場面によっておこなわれると想定し、「ね」のコミュニケーション機能を分析することによってどのような談話が行われているか試みた。まず、終助詞「ね」の内在的意味の概要を述べた後、コミュニケーション機能をポライトネスの視点で分析した宇佐美の研究を概観した。宇佐美の量的研究に対して、本稿では、実際の会話からどのように「ね」が使用されているのか分析した。その結果、「ね」の会話分析をすることによって談話の中の話者の役割が推測できるということがわかった。また、会議の談話においては、本来の確認や同意(会話促進)の「ね」よりも「話し手の情報」が「よ」ではなく、「ね」が「発話緩和」として使用されていることがわかった。また、宇佐美の言うようにただ単に「ね」の頻度を男女別に調べるのではなく、場面差なども考慮し、機能別に分析しなければならないということを示唆した。そして本稿では、「会議場面での意思決定のプロセスにおける「ね」のコミュニケーション機能のジェンダーの不在」という仮説を提案した。
 
参考文献
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  • マグロイン・花岡直美:1997,「日本の女性語 終助詞」『女性語の世界』井出祥子編 明治書院, pp.33-41
  • 宮川公男編著:1994, 『経営情報システム』中央経済社
  • 三宅知宏:1996,「日本語の確認要求的表現の諸相」『日本語教育』89 pp. 111-122
  • れいのるず秋葉かつえ:2001,「日本語の中の性差のゆくえ」『月刊言語』大修館30-1 pp.30-35
  • __________:2001,「ポーズ・フィラーから見た女性の話し方の変化と現状」『女とことば 女は変わったか 日本語は変わったか』遠藤織枝編 明石書店pp.100-112

(林 千賀 はやしちか 青山学院大学大学院)

 
 
 
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