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学会誌2号:フォーラム

フォーラム 留学生と語る日本語とジェンダー

◆パネリスト
日本大学法学部教授 山田 卓生
京都大学経済学部教授 日置 弘一郎
横浜国立大学経営学部助教授 二神 枝保
ヤヴォール・コエフ(ブルガリア)
ガイ・ヤシン(セネガル)
ジェフリー・イングランド(イギリス)
◆コーディネーター
横浜国立大学教授 佐々木 瑞枝 (敬称略)

パネリスト紹介

佐々木:パネリストを紹介いたします。まず、こちらは横浜国立大学の前留学生センター長で、今は日大法学部の教授、また弁護士活動もされている山田卓生先生です。それからブルガリアからの留学生のヤヴォール君、セネガルからの留学生のガイ・ヤシンさん、イギリスからの留学生のジェフリー・イングランド君です。次に、経営学部の助教授でいらっしゃる二神先生、京都大学の経済学部教授で経営人類学ご専攻の日置弘一郎先生です。パネリストの方々、今日は本当に暑い中ありがとうございます。

次に会場の留学生達を紹介いたします。ヨルダンからの留学生のマーゼン君、国ではヨルダン日本大使館に勤務していました。次にチリからの留学生で、現在博士課程で勉強中のアサヒ君、ブルガリアからの留学生のスタニッスラブ君、中国からの留学生、敬波君、韓国からの留学生の姜さんです。皆さん、よろしくお願いします。フロアの留学生達にも意見を言って頂ければと思っております。

皆さんの方にレジュメがお渡りかと思いますが、「留学生と語る日本語とジェンダーその背後にあるもの」ということで、お話しを進めていきたいと思います。先生方にはそれぞれの専門領域のお立場と、日本語とジェンダーという観点の両面からお話し頂ければと思っております。最初に一言ずつ先生方からお話し頂いて、それから会場とのやりとりをし、その後またパネリスト間で議論するという形にしたいと思います。会場との時間を長くとりたいと思っておりますので、先生方のお話もそれ程長くはない事になると思います。先ず山田先生からお願い申し上げます。

ことばと法

山田:それでは、私から少し一般的な事を、私なりの問題意識で話したいと思います。
私のお話はことばと法という事で、私の専門が法律でありますのでこういう題に致しました。ことばと法は非常に似通った所がありまして、社会がそれぞれの法を持つと同様にそれぞれの言語を持っている。しかもその言語自身、ことば自身が、国により、民族により、階級により、年齢により、そして今日の主題であるジェンダーによる差異がある。社会にはそれぞれ特有の言語がある。つまり、いわゆる隠語のようなものですね。

そういう事で、今日はジェンダーに焦点を当てておられるという事であります。そういう文化の表現としてのことばがある訳ですが、このことばに表れたジェンダーのような事を考えていきたいと思います。ただ、ことばとジェンダーというのは、非常にいろんな意味がありまして、例えば日本人ですと自分の事を、男性はたぶん、"私"なり、"自分"と言ったり、"俺"と言ったりする人もいますが、女性は自分の事を、だいたい"私"なり、そういうわりに柔らかい表現を使う訳であります。

そういう意味での男性と女性で言葉が違うという事の他に、例えばもっと端的には、牛のように英語でoxとcowと言うように、雄と雌とでことばが違う。これは、牛乳を出すか出さないかという事から来るもので、雄の牛と雌の牛とでは全然価値が違うという事から来ている。それからもう一つは、ドイツ語に言葉そのものに性があります。男性名詞と女性名詞、これは同じくフランス語にもある訳ですが、ドイツ語との違いというのは中性名詞があるという事です。何を男性にし、何を女性にするのか。例えば、月というのは、ドイツ語ではder Mondで男性名詞ですが、フランス語では月はla luneというので女性名詞になっておりますし、それから太陽は、ドイツ語ではdie Sonneで女性ですが、フランス語ではle soleilというので男性名詞になるという事で、月と太陽からして性が違う。こういう意味での一種のジェンダーのようなものがあります。それからドイツ語では、名詞に女性形と男性形がある。例えば裁判官というのはRichterですが、これは男性の場合で、女性裁判官はRichterin、それから、お医者さんはArztですが、女性のお医者さんはArztin、男性歌手はSingerですが、女性歌手はSingerinという。

こういう意味での差異がある訳ですが、これは単にこういう言葉の使い方という訳で、今日出て来るのはもう少しこの言葉に表れたジェンダーというものがいろんな形で、例えば"男っぽい"とか、"女々しい"とか、"男らしくしなさい"とかですね、こういうように一定の男性ジェンダー像を前提にしてそれに意味を込める。こういう形が出てくる訳であります。それから、男言葉と女言葉でたぶん留学生の方が奇異に思われるのはですね、男は"みかん""寿司""大根"と言いますが、女性は"おみかん""お寿司"とかですね、"お大根"と言ったりします。男はたぶん、"おみかん"とか"お寿司"という言葉は使わないのではないかと思います。こういう形で表現の方法も違う。それから、multi-negationと言うのですが、" I don't know nothing."これは、文法的には変な言葉ですが、こういう表現が例えばデトロイトで使われているそうですが、要するに 何も知らない というのを"I don't know nothing."と言うのです。この使い方というのは、クラスでいいますと非常にlower classですね。男性と女性でいいますと男性の方が多いという、これはそういう研究がありまして、こういうように話法そのものにも、人による差異が出て来る。 それから三番目に、グループの中に言葉が生まれて来る。これが業界の用語、あるいは隠語、専門語で、例えば"サツ"とか"ホシ"。これは、"サツ"とか"ホシ"と言うだけで、たぶん日本人の方は分かる。"ホシ"とは、スターではなく犯人、"サツ"とは警察のサツですね。それから"しゃり"なんていうのは、お寿司屋さんに行くと御飯の しゃり 。それから"ゲラ" とか"ルビ"というのは、印刷業界で校正の事をゲラと言うし、かなをふる時はルビと言います。こういう言葉は、たぶんそういう業界に関連がない人には分からない。こういう事になる訳であります。そこから今日、日置先生がお話になります、いわば言葉遣いというのですけど、語法であるグループの中で極めて特殊な言葉遣いがなされてるという話になり、そして二神先生も、たぶんその辺のお話をされる事と思います。

言葉というのは一定のルールに基づいているのですが、この言葉のルールというのは、常にフレキシブルでありまして、例えば、電車の中で聞いておりますと、女子高校生が 俺はねー とか 俺はよー とか、そういう話を平気でしているんですね。あれは、われわれから言うと非常に奇異でありますが、彼女たちからするとそういう言葉遣いが極めて一般化しているという事で、これはたぶん、日置先生が分析して下さると思います。それから用語違反があっても、それに対する制裁というのは、それ程厳しくない。 男っぽい口を聞くねー というように非難されたりする場合もありますが、言葉のルールは緩くなっていると思います。言葉のルールがいかに緩いかは、よく辞書に ~の誤用 と書いてあることからも分かります。つまり誤用が非常に普及すると誤用じゃなくなって、辞書にも載るようになるということです。例えば、"全然"という言葉は、たぶん30年位前は"全然"の後は必ず否定を伴っていたんです。ところが、この2,30年の間に"全然"は肯定で使うようになりまして、当初は誤用だったんですが、辞書をチェックしておりませんが、今は、"全然"のそうした使い方も誤用とはもう言わないようです。"非常に"という意味を"全然"というので使っているんですね。それから、今の若い人は"チョー"という言葉をよく使う。"チョー"というのは、 "超える"という字を使って"非常に"という意味で使っているんだと思いますが、"チョー○○"というように言ったりしています。そういうことを昔は"チョー○○"なんて言う事はなかったのですが、今はそういう言葉を使うようになった。言葉というのは非常に動いて行きますので、そういう点で、私の専門である法律よりは、はるかにフレキシブルで住みやすい世界ですが、法律の方はそうはいきませんで大変堅く、そのために法律の印象が悪くなっていると思いますが。そんなことで皮切りに、私なりに関心を持っていることをお話し致しました。

佐々木:短時間に興味深いご指摘をありがとうございました。8つの日本語ジェンダー表現をキーワードに次は留学生たちに話していただきます。私の方で予め留学生達に、「日本語にこういう表現があるんだけれども、皆さんの国ではどうですか?」という質問を出しておきました。皆さんのお手元にたぶん私の"女と男の日本語辞典"という辞典のレジュメ がいってると思いますが、その辞典の中から8つの言葉を選んでおきました。"玉の輿"、"才媛"、"男泣き"、"悪妻"、"適齢期"、"OL"、"お父さん/お母さん"といった言葉です。こうした言葉には、いろいろな点で日本社会の倫理観やジェンダー観が刷り込まれていると思うのです。

留学生たちの母語にはこうした言葉と同様の表現があるのかどうか、また、留学生たちはこうした言葉についてどう思うかを聞いてみたいと思っています。では、留学生たちの話を聞く前に、私の方から、会場の留学生たちのためにも、これらの言葉のジェンダー的な背景について簡単にご説明しておきたいと思います。
まず "玉の輿"という言葉ですが、"玉の輿"というのは、女性が男性の高い地位や収入や学歴を当てにして、その人と結婚する事を言う訳ですね。男性がそういう女性と結婚する"逆玉(の輿)"という言葉も最近出てきましたが、そうした事例もあまりないし、言葉としてもあまり使われていません。ここらへんに、男性優位社会の反映がみられると思います。

"才媛"は、女性を結婚式で誉める時の決まり文句の一つですね。"才媛"の"媛"には美女という意味あいがあり、"才女"よりも"才媛"の方が"才色兼備"という女性への期待感を表しているように思います。

"男泣き"という言葉からは、女性は泣くのが当たり前、男性は泣いてはいけないという文化を感じます。次に"悪妻"ですが、悪い夫はいっぱいいると思うんですが、どうして日本語には"悪夫"という言葉はないんでしょうね。"良妻"を求める男性側の期待が裏切られると"悪妻"となる訳で、もっぱら男性の判断が優先されていることを表しているのではないでしょうか。

"適齢期"という言葉では、クリスマスケーキがよく例に出されたりしますね。クリスマスケーキは24日までは高いけど、25日過ぎるとがくっと値下がりする、それと同じように女性も24歳までが売り頃だというわけです。今はもう"適齢期"という言葉自体が死語化しつつあると思いますが、女性だけに"適齢期"が言われるというのは、女性に対する社会のプレッシャーを表していたと思います。"OL"という言葉はどうでしょうか。「会社で働く女性」のことを以前"BG"と言っていました。しかし、"BG"は英語としてはあまりよくないニュアンスの言葉だというので、"Office Lady"の略の"OL"が使われるようになりました。問題は、いったい何歳くらいまでの働く女性が「私は、OLです。」と言えるのかという点にあります。例えば、50歳の女性会社員は"OL"と呼ばれるでしょうか。"OL"という言葉には、男性社員の下働きをしてくれる若い女性社員という意味合いがあるのではないでしょうか。

それから、呼称の問題です。家庭内で夫婦がお互いのことを「お父さん」「お母さん」と呼んだりしますね。家庭によっては、「パパ」「ママ」という呼び方もあるようですが、どちらにしても自分たちの子どもの立場からお互いを呼び合っていることになります。こうした点は、日本の家庭に特有の呼び方なのでしょうか。
私からの説明がちょっと長くなりましたが、これら8つのジェンダー的な表現を留学生たちに私の方からキーワードとして出しておきましたので、その中から二つ位ずつについて、留学生にコメントして頂ければと思います。では、ヤヴォール君からお願いします。

ブルガリア語の観点から

ヤヴォール:"OL"という言葉は、ブルガリア語には同じような表現はありませんが、秘書という言葉の女性形、ブルガリア語はドイツ語と同じで名詞に性がありますが、セクレタルカは男性形のセクレタルと意味が違います。
佐々木:黒板に書いてみてくれませんか。
ヤヴォール:男性の秘書は"CEKPETAP"。そして女性の秘書は"CEKPETAPKA"になる。でも、女性形は男性形とは別の意味になってしまいます。女性形の秘書は"OL"のようにオフィスで雑用、コピーでもファックスとか、紅茶、コーヒーを作るだけ。それは、"OL"の事。
佐々木:そうすると、KAが付かない男性の秘書には、もっと違う仕事があるわけですね。
ヤヴォール:はい。秘書とか。例えば、アメリカのSecretary of Stateの意味です。
佐々木:階級がずっと上になるわけですね。
ヤヴォール:あと面白いのは、"主人"と"家内"。ブルガリアでは、夫のことを主人masterとは呼ばない。夫は妻を「ジュナ・ミ」、妻は夫を「マジェット・ミ」と言う。この意味は、「ジュナ・ミ」"ЖΕНА МИ"は「私の女」、"МИ"は、「私の」という意味です。そして、「マジェット・ミ」"МЪЖЪТ МИ"は私の男だから、主人という意味を表していますが、普通に使われています。平等かなと思いました。
佐々木:はい。どうもありがとうございました。"主人"と"家内"とは大分違いますね。では、ガイ・ヤシンさん、お願いします。

セネガルでの「悪妻」と「悪夫」

ヤシン:はい。私が言いたいのは、特に"男泣き"と"悪妻"という言葉です。セネガルでも男が泣くのはダメみたいで、男は女とはもっと違うように感じるべきですから、女のために泣いてはいけないというのは、日本と同じです。だから、そういう表現も男だけに使われていて、男の弱さを表しています。
佐々木:セネガルでは何語が話されているのですか。
ヤシン:フランス語とウォルフ語ですね。
佐々木:ウォルフ語ね。ウォルフ語というのは、セネガルの母語ですね。ウォルフ語にも"男泣き"という表現があるわけですね。今の言葉をウォルフ語で書いて下さい。
ヤシン:"GOOR BOVY DICY"
佐々木:これは、男が泣いているという意味ですね。泣かないはずの男が泣くっていう意味ですか?
ヤシン:はい。
佐々木:感動したりして?
ヤシン:はい。でも、感動してもちょっと我慢しないと・・・
佐々木:これは、いい意味ですか、悪い意味ですか?
ヤシン:悪い意味です。馬鹿にされる。
佐々木:馬鹿にされるんですか?男が泣くって言うので?日本の"男泣き"とは、ちょっと違いますね。日本語では、「男泣きに泣いた」というのは、「感動して泣いた」という意味ですね。もう一つ表現の例をあげていただけますか。
ヤシン:はい。あとは、"悪妻"。国では、結婚する前に必ず料理できないと"悪妻"になるわけ。だから、学校に行っても、必ず親達からその料理を作るためのことを全部学びます、将来のために。だから、料理できないと、子供の世話ができないと、両親の世話ができないと、ちょっと"悪妻"になりますね。
佐々木:"悪妻"って言う言葉があるんですか?
ヤシン:あります。
佐々木:あるんですか?"悪妻"という言葉が。
ヤシン:はい。
佐々木:「あの人は"悪妻"だ」とか言うんですか?
ヤシン:はい。でも"悪夫"もあります。
佐々木:"悪夫"もある。それはいいですね、日本語より。
ヤシン:"DIABAR BOU BONN"
佐々木:これは"悪妻"?
ヤシン:はい。
佐々木:どれが悪なんですか?
ヤシン:DIABAR BOU
佐々木:では、"悪夫"も書いて下さい。上は同じですよね?
ヤシン:"DIAKAB BOU BONN"
佐々木:あー、なるほどね。"悪夫"って、どんな人が"悪夫"なんですか? 料理ができないと"悪夫"とか? 
ヤシン:いいえ。"悪夫"だと、夜遅く帰るとか。 
佐々木:日本の男性、皆"悪夫"じゃないですか? 残業して。 
ヤシン:社会的には違うんですけれども、セネガルでは、必ず7時までで仕事が終わりますから、早く帰らないとちょっとおかしいです。
佐々木:なるほど。セネガルの文化の一端に触れた気がします。どうもありがとうございました。では、イングランド君、お願いします。

イギリスのエリジブル・バッチェラーの意味するもの

イングランド:私の言いたい事は、"適齢期"についてなんですけども。まずこの表現は、イギリスではないと思いますけれども。でも面白い点は、男性に対してエリジブル・バチェラーという表現があります。
佐々木:どんな意味があるんですか。
イングランド:そうですね。"eligible bachelor"、これは男性についての表現ですね。この表現は、結婚相手にふさわしい独身男性という意味です。テレビニュース等でよくこの表現を聞きます。特にケンブリッジやオックスフォード大学の男性について、こういう表現がよく使われています。
佐々木:あの人は、eligible bachelorだというように使うんですね。で、その人と結婚できたら"玉の輿"に乗る。
イングランド:うん。まぁーそうですね。ちょっと・・・
佐々木:要するに、良い大学を出るから、秀才で頭も良いし、たぶん会社も良い所に勤める。家柄も良い。そうですか?
イングランド:はい。
佐々木:ハンサムとかそういうのは関係ないんですか?
イングランド:そうですね。まぁー体が良いとか、性格も関係があると思いますが、背が高いとか。
佐々木:背は高い方がいいんですか?
イングランド:うーん、まぁーハンサムらしいとか。
佐々木:そうですか。日本では、"三高"という表現があるんですけど、学歴が高くて、背が高くて、高収入、収入がよい。それと似ていますか?
イングランド:はい、そうですね。でも、それは大学生の時は・・・
佐々木:あー、そうですか。
イングランド:何か、スポーツでも良くできる。
佐々木:そうですか、なるほど。ニュースで使われるそうですが、eligible bachelorだと言われるとうれしいわけですよね?言われた人は。
イングランド:そうですね、はい。
佐々木:eligible bachelorにあたるような女性はいないのですか?
イングランド:女性には言わないと思いますね。
佐々木:要するに男性は、やっぱりそういう社会の担い手、働いて女性を支えていくから、男性に対してはそういうeligibleである事が必要だけれど、女性はそうでもなくていいという、どこかにそういう意識があるんでしょうか?そんな事、考えた事ありますか?
イングランド:うん、まだ・・・
佐々木:たぶんそういう事あると思うんです。ちょっと考えてみて下さい。会場の方はどうお考えですか。eligibleを男性に対して使うからには、男性にそういう事が期待されていると思うんですが。
イングランド:二番目は、"玉の輿"ですね。英語ではこれにあたる一つの固定的な表現がないと思いますけれども。それに近いいろんな表現はあると思います。私は三つ選んでみました・・・
佐々木:書いていただけますか。
イングランド:marry for money, strike it lucky, found a gold mine.いろんな表現があるのですが。
佐々木:日本の表現と比較すると、お金が出てきたり、金鉱が出てきたり、どこか経済主義的ですね。"玉の輿"と言うと、もうちょっと優雅な響きがあるのですが、英語のこの表現は非常に直接的ですね。
イングランド:はい。
佐々木:一般的にどういう風に使うんですか? 男性に対してだけ使われるんですか?
イングランド:そうですね。男性にも女性にも使う表現なんですけども。
佐々木:女性に対しても使うんですか?
イングランド:そうですね。両方とも使いますね。結構面白い点もありますよ。競馬を見に行った時、競馬場で金持ちの女性と結婚したがっている若い男性と出会いました。
佐々木:そうですか。その人達は、そこでそうした女性を探すわけですか?
イングランド:そうです、はい。
佐々木:探す?「金鉱」としての女性を。ユニークな『玉の輿」についてのお話、ありがとうございました。では次、二神先生、お願い致します。

人材の流動化と女性のキャリア形成

二神:すみません、所々OHPを使わせて頂きますので、ちょっと見苦しい点もあるかと思いますけれども、よろしくお願い致します。報告のテーマはレジュメ にございますように、「人材の流動化と女性のキャリア形成」というタイトルでお話させて頂きたいと思います。私、専門の方は女子労働であるとか経営学といった事なので、多少そういう切り口からお話させて頂いて、全体のテーマの方で又、議論という風にさせて頂きたいと思います。

今、人材の流動化が非常に進展しているという事が言われております。これは労働市場全体の動きを表しており、労働市場が多様化しているとも言えます。労働市場の中心部分は日本的雇用の正社員、あるいは常用労働者と言われるコアな労働力ですが、今、労働市場で起こっている顕著な動きは、その周辺部分、パートタイマーとか、派遣労働者とか、契約社員といったような非正規従業員が、労働市場の中で大きな比率を占めるようになったという点です。2000年のデータによりますと、雇用者全体に占める非正規従業員の比率は26%であり、非常に増えてきております。その中でも特に、派遣労働者が今、非常に注目されております。ちょうど図でいうと、temporary workerというグリーンの部分でございますけれども、派遣労働者の働き方というのが注目されていて、そこに焦点を当ててお話したいと思います。

現在の日本の派遣労働者数というのは、非常に増大しておりまして、1998年には90万人、最近のデータによると、もう100万人を越えたと言われております。ただ正確に言いますと、特に人数が増えているのは、登録型派遣労働者といわれる人達で、それが1986年の87,370人から、1998年には749,635人にまで増えております。OHPに示したように、増大化が非常に著しいという事で注目されている登録型派遣労働者というのは、現在日本ではほとんどが女性であり、そういう意味では女性のキャリアの一つとして見る事ができるのではないか。そして今、派遣という働き方を多くの女性達が、就労形態の一つの形として選んでいるという所にもまた特徴があるんではないか、という事をお話したいと思います。

では簡単に派遣労働とは何かという事をまず簡単に説明したいと思います。派遣労働においては、派遣労働者と、派遣元のエージェンシーいわゆる人材会社と、クライアント企業つまり派遣先の企業、この三者が存在しています。派遣元と派遣労働者との関係は、お給料を貰うとかそういう事で雇用関係、赤とブルーの所は雇用関係があります。そして、赤と黄色の部分、派遣先と労働者の関係というのは、ちょうど指揮命令関係。そこで上司に色々仕事を指揮されるという事で指揮命令関係という形でこのトライアングルの形が、普通の働き方とは違うという事がお分かり頂けるかと思います。

ちょっと時間も限られておりますので、私が実施した調査の中からいくつか、ちょっとおもしろい結果が出たという部分だけ簡単に説明したいと思います。今OHPで示しているのは、派遣労働者のコミットメントというものを職種別、つまり技能別に比較したものです。ここでは、派遣労働者をハイスキルとロースキル、つまり非常に技能の高いグループと技能の低いグループ、赤とグリーンに分けてみました。その時に、どのように意識が違っているかという事を見てみたいと思った訳です。ハイスキルというのは、例えば情報処理技術者、今注目されているようなそういう人達であるとか、翻訳とか通訳という事で比較的専門性が必要とされるグループです。グリーンの方は、低技能グループ、例えば簡単なOA機器の操作だとか、ファイリングだとか、いわゆるルーティンワーク、事務職といった様な人達です。ここで言っているテンプコムとかクライアントコムというのは、コミットメントという意味ですけれども、簡単に言いますと、個人が組織に対してどの位同一化しているか、どれだけ距離感を持っているかという事です。

例えば、組織の目標とか価値観をどれだけ受け入れるかという、そういう所謂、帰属意識だとか忠誠心と言われるよう心性を表しています。テンプコムというのは、要するに派遣会社に対する組織コミットメント。クライアントコムというのは、派遣先に対する組織コミットメントという事です。次のエンプロイメント・コミットメントというのは、仕事生活を自分の全生活の中でどれぐらい重要視しているかというコミットメントです。一番下のジョブ・フォーカスというのは、日本語で言うと、職務関与とかそういう言葉で言い換えられると思いますけども、仕事にどれだけのめり込んでいるかとか、そういうような尺度の事です。

この表からお分かり頂けるように、明らかになったのは、まず第一点としましては、ハイスキルとロースキルの中で有意差が出た(一番右の所に有意水準が出ていますけども)のは、ジョブ・フォーカスの部分つまり職務関与の部分です。この部分で大きな違いが出ているという事が、一つ分かった事です。もう一つは、どちらのグループにしても、テンプコムもクライアントコムもエンプロイメントコムも、リッカードの5点尺度を用いた5点満点で回答してもらったのですが、これらのコミットメントに関する質問項目への回答の点数はどちらも比較的予想したよりも低いという点です。

次にその二つのグループ間でのコミットメントのそれぞれの相関を示している図です。ハイスキルとロースキルを比較とした時にどういう事が言えるかと言うと、特にここの調査で分かった所は、ロースキル(低技能)グループの方では、仕事生活へのコミットメント、エンプロイメントコムとテンプコム、クライアントコムといったそれぞれの組織コミットメントの間には相関関係があるんですけれども、ハイスキルグループには、エンプロイメントコミットメントとテンプコム、クライアントコムの間に相関関係がないという事実です。

以上のデータから、これらの数値をどう解釈するか、という点についてお話したいと思います。大体大まかに分けて四つくらいのポイントとしてまとめられるのではないかと思います。まず第一には、仕事への意識という事が、非常に変わって来ているのではないかという事 です。特に日本の若年層を中心としまして、価値観が非常に多様化している。しかも、変化しているという事です。派遣労働者の入社動機といったものを調べてみると、人間関係のしがらみがない、多くの職場で働きたいという、そういうような理由が多くなっていて、従来の終身雇用というような働き方というのとは少し違ってきています。一つの企業の中における昇進よりも、心理的な成功、これはキャリア研究なんかのHall(1998)が言っている事ですけれども、自分の達成感だとか、自分の成功の尺度というものを持っていて、それを重視しているようになっているのではないかという事です。

二つ目のポイントとしては、仕事と家庭の両立という事です。派遣労働者のほとんどは、先程も言いましたように、ほとんどが女性なんですけれども、家庭と仕事を両立するために派遣を就労形態として選んでいるケースが非常に多いということが、調査の中でも明らかになりました。彼女達は、職場においては職業人であると同時に、家庭では母であったり、パートナーであり、そしてまた地域では、地域社会の住人というように、それぞれの役割を果たしておりまして、それぞれを非常に充実させたいという事が、インタビューの中でも明らかになった事です。

第三点目に重要だと思われた点は、派遣労働を自発的にやっているかどうかという事が非常に大きな問題でした。この調査中に行ったインタビューで、何人かの派遣労働者は、例えば企業のリストラ(restructuring)、あるいは夫の転勤によって正社員を辞めて仕方なく派遣に就いていると話していました。こういうケースでは、先程言ったコミットメントという数値が非常に低くなっています。ですから、自発的に派遣労働をやっているかどうかというのは、非常に大きな問題となっていると言えるのではないかという事です。

四つ目にポイントとして言える事は、クライアント企業の人事政策、あるいはマネジメントの問題です。何人かの派遣労働者達は、自分達がプロフェッショナルとしてではなくて、むしろ正社員の代替として活用されているという事を感じていました。日本ではコース別人事制度というのが多くの企業で導入されています。ご存知のように、コース別人事制度では総合職と一般職という区分があって、現実には総合職のほとんどが男性であり、一般職のほとんどが女性という事になっています。長引く不況の中で、企業は人件費を削減する為に、派遣労働者を結局は、一般職の代わりに使っているという事がありまして、先程のデータで見たように、派遣労働者の専門性が高い場合、つまりハイスキルの人の方がどちらかというと自分達がコアから排除されている、企業の中の中心部分から排除されている、という疎外感を非常に感じている。あるいはインタビューの中でも、自分達のスキルとかキャリアが開発されていないという事を非常に感じているという話がされています。

こうした派遣労働のあり方には、次のような問題があるのではないでしょうか。現在アメリカなどでは、女性のプロフェッショナルを中心にboundaryless career,つまりboundary<境界>がないキャリアが形成されているという事が言われています。boundarylessというのは、要するに派遣労働とか、あるいはいくつかの契約関係のもとに企業を渡り歩くような働き方ですけれども、そういうのが非常に広がっているという事が言われています。ただ、もちろん日本においてもこれからそういうboundaryless careerというのが、プロフェッショナルの人達を中心に広がってくるだろうし、増えていくだろうという事が言えるんですけども、先程述べたコミットメントの問題とか、あるいは雇用保障だとか賃金の面では、まだまだ解決すべき事が多く残されているのではないかと思っております。という事で、以上です。

佐々木:ありがとうございました。日本の働く女性たちが、今後どのようにキャリア形成していくのか、今のご発表を念頭において見据えていきたいと思います。では日置先生、よろしくお願い致します。

「書記」と「秘書」に違いはあるか

日置:先ほどの問題ですけれども、ブルガリアで男性の"CEKPETAP"と女性の"CEKPETAPKA"ですか?が、非常に地位が違うというのは、一つには、社会主義国はどこでもsecretariatというのは、すごく偉いんですね。ロシアの専門家の木村汎先生(国際日本文化研究センター教授)という方に、「なぜ書記が社会主義国で偉いんですか?」という事を聞いたら、「あれはレーニンの趣味です。レーニンが書記というポストを非常に重要視して、そして自分は書記長というポストに就いた。それからどこの社会主義国もみんな、secretariatというのは偉くなったんだ。」「それは何か理由があるんですか?」と木村先生に更に尋ねてみたら、「それは良く分からない。どうもレーニンがsecretariatという言葉が好きだったんじゃないか?」という風に答えられてしまって、それ以上は聞けなかったんです。

どうも、それが社会主義国全体に影響しているようです。言葉の使い方そのものとしては、「書記」と「秘書」は、実は同じ言葉です。日本語では使い分けてますけれども、政治的な意味でもsecretarialというのが書記と訳すべきで、女性の事務補助職が、非常に低い地位の仕事を指す場合は秘書とするような違いがたぶんあるんだろうなと思います。

他にも、留学生の人達が言った事でいくつか言いたい事があるんですけれども、ここでは私が今日問題にしなければいけないのは、"OL"の言葉の使い方、職場の中で"OL"がどういう風な言葉遣いをしているか。その中で、非常に対等に話をする"タメ口"という言い方があります。特に、留学生の人達は「"タメ口"という言葉は使ってはいけません」という教育を受けている事が多いと思います。これは言ってみれば、学生の時の言葉をそのまま引きずって、そして日本人が学生言葉で、つまり自分が小さい時の言葉で仲間と喋る時の言葉をそのまま使う、というのがたぶん基礎になっている。それが、OLとかあるいはサラリーマンになってもその言葉で喋るという、そういう関係の人間というのが特別にいる。ところが、完全に仲間だけの言葉かっていうと、実は仲間にするかしないかという所で、職場の中の人間関係を見分ける事ができる。そのために、私は"タメ口"の研究をしています。本来の研究は組織論という領域ですので、人間関係を図る尺度として"タメ口"を使っているかどうかという事を考えていこうというのが、私の最初の入り口でした。この学会に入ったから、むしろその"タメ口"がどう使われているか、という日本語論からの議論をしなければいけなくなって、今日ここに座っていて非常に困ってもいるわけですけども。

「タメ口」から見える日本の社会構造

それで、その"タメ口"というのがどう使われているか。非常に面白いなと思ったのは、先程、二神さんの話にあった派遣社員ですね。先程、私の昔の学生だった川口さん、どこかにいますかね?えーと、彼女に話を聞いていたら、「派遣社員の人をテンポさんと呼んでいました。」それ自体も非常に面白い表現なんですけれども、「テンポさんに対しては"タメ口"は使わない」。つまり、同じ年齢であって、同じように同じような仕事をしている場合でも、派遣社員の人は自分の会社の人ではないから、物を頼む時にも非常に丁寧な言葉で言う。「こうして下さい。ああして下さい。」というのは、必ず敬語を使って表現するという事を聞きまして、これは非常に面白い事例だなと思いました。"タメ口"関係になるかならないかで、人間関係が違って来るという事があります。

留学生の人との関係で言うと、非常に困った事が起きまして、つまり、日本人は小学校、中学校の時に使っていた言葉を、それを"タメ口"として使っている訳ですから、これはごく自然に出てくる言葉なんです。そして、ごく自然に出てくる言葉をどういう風に使っていいかという訓練を受けて修正をする。そして、職場の中の言葉を使う訳ですね。ところが、留学生の人達は、最初から非常にフォーマルな日本語を習います。どういう場合にも通用する日本語を学ぶ。ところが、その人達が実際に仕事をして、職場に入って、日本人と仲良くなると、相手は"タメ口"を使う訳です。留学生の人達は、改めてもう一度"タメ口"を勉強しないといけないという、非常に厄介な事なんです。自然に使えるのが日本人で、留学生の人達は、わざわざそれを勉強しなければいけない。文法も少し違うし、また非常に分かりにくい条件もある。それは何故かと言うと、小学校、中学校の子供の時の言葉ですから、年齢によってもかなり開きがあるし、地域によっても開きがあります。そういう言葉を改めて勉強しなければならない。ですから、例えば私が対等の言葉、敬語を使わずに喋るという"タメ口"と、二神先生が使う"タメ口"というのは世代が違いますから、大分違う日本語を使う訳です。でもそれを理解しないといけないというのは、これは留学生にとって随分迷惑な話です。

ただそういう"タメ口"という言語モードがあって、機能しているという事を知らないと、日本人が"タメ口"を使うというのは、相手に対して親しいという関係を示している。ところが、それに対してフォーマルな日本語を使うと、相手との距離を置くという日本語になりますから、いつまでたっても仲良くなれない。ところが、下手な"タメ口"を使うと、もし日本人の異性に対して"タメ口"を使うと誤解されるという事は十分あります。そういう意味から言って、「かなり日本語に慣れてきて、色々と使い分けが必要だという事が分かるまでは、使ってはいけません」という教育は正しいと思うんですけれども、だからと言って"タメ口"がなくなるわけではない。そういう点では、職場の中でもあるいは留学生でも、言葉をどういう風に使って自分を表現していくかという事については、実はその大変に大きな領域が残されているんだ。この事を理解して研究していかなければいけないと思います。

佐々木:どうもありがとうございました。「タメ口」という表現は、まだ一般には浸透していないようですが、現実の日常語では、昔から存在していたんですね。非常に鋭いご指摘だと思います。 今日はパネリストの方々から多方面にわたるジェンダーの問題が出ました。日置先生のご指摘に関しては、社会言語学の分野でも扱えるし日本語教育でも扱えるテーマですね。日本語教育では、常体、敬体の使い分けという点では最初は敬体から教え、中級くらいの日本語力がついたところで常体を教えるというのが、よくあるパターンです。このスイッチコードを留学生達に認識させるのは、なかなか難しい事です。

今日は会場に他の留学生も来て頂いているので、留学生の意見も聞いてみたいと思います。マーゼン君、ヨルダンはアラビア語圏ですね。イスラム教の社会が背景にあるわけですが、一つ言葉を取り上げて、話していただけませんか。

アラビア語の「適齢期」

マーゼン:"適齢期"という言葉はアラビア語にありますけど、でも他の言葉もあります。"適齢期"は、そのageですね。でも、そのageが終わってから"適齢期"のないage、"適齢期"が終わってから結婚ができないageという言葉もありますね。
佐々木:それは面白い表現ですね。
マーゼン:例えば、もし35歳まで結婚できます。でも、35歳から結婚できないですね。だから・・・
佐々木:誰が結婚できないんですか。女性ですか、それとも男性も対象になっていますか。
マーゼン:はい。
佐々木:男性も?
マーゼン:今説明します。そういう言葉は、"適齢期"ですか?日本語では。これは、アラビア語で・・・
佐々木:"適齢期"というのは、結婚するのに良い年齢で、結婚できる年齢といったcanの意味はないですね。
マーゼン:はい。普通は35歳、例えばですね、35歳まで簡単に結婚するチャンスはありますね。それはアラビア語で(センイズアラージュ)と言います。これは、アラビアですね。これは、結婚のチャンスも終わった。これは、すみません。これはそういう言葉ですけど、意味は違います。これは(センアラムーセ)と言います。普通はヨルダンで、アラブの国で、結婚はとても大切ですから、日本で例えば"三高"もありますね。だから、女性はそういう"三高"もある場合は、私は彼と結婚したくないけれども、それはちょっと難しいですから、そういう事をたくさんしないと恐い時に、皆はこう言いますよ。「あなたはもうすぐ(センアラムーセ)に着きますよ。だから早く結婚した方が良いですよ。」
佐々木:あー結婚しないと、日本語にもありますね。(会場から"行かず後家"という指摘)そうです。たぶんそれですね。
マーゼン:だから、勿論このageは決まってないですけど、60歳、70歳、結婚している人もいますけど。でも、そういう延期しないように早く結婚した方が、分かりますか?皆はこういう言葉を使っていますよ。「もうすぐですよ。だから早く結婚した方が良いですよ。」
佐々木:なるほど。ありがとうございました。
日置:共通しているかどうかという事になると、あまり共通していなくて、特にイギリスを含む中欧、北欧、ミドルヨーロッパ、フランスの北側ですね。それがその世帯形成原理という言い方をするんですけども、男性晩婚が特徴とされています。男性がかなり遅く結婚する事によって、人口を調節する。あんまり早く結婚すると、子供がたくさん生まれてしまう。それに見合うだけの生産性がないと、全体社会が衰退してしまうので、できるだけ人口を抑制するために男性を晩婚にするんだ。そういう議論がオックスフォード大学のグループで、大体15年位前からそういう議論があるんですけど。
佐々木:そうですね。今、日置先生のおっしゃったフランスからの影響じゃないかと思うんですが。人口抑制制と結びついているのかもしれませんね。
日置:それがその伝統になっていて、男性の方に"適齢期"を設定する文化、 それから女性の方に"適齢期"を設定する文化とが違っている。
佐々木:それは、ジェンダーの問題としては、非常に面白いですね。
日置:それはジェンダーの問題かどうかと言うと、ジェンダー以外に、世帯形成でどういう風に子供を産んでいくかという、それぞれの社会のストラテジーに関係してくる。
佐々木:なるほど。この議論、もう少し続けたいところですが、時間の制約がありますので次回と言うことにして、会場の方にもう少しご発言いただければと思います。韓国の方いらしてますが、男性が兵役の義務があるので、男性のいわゆる"適齢期"は、28位までが平均になると聞いたことがありますが。今は遅くなって28とは言えないですけど、32とか33まではもう・・・
佐々木:そうですか。社会によって適齢期は異なるけれども、そういう表現があるかないか、また日本のように女性だけに使われる場合にはやはりジェンダーの問題だと思うんですね。
次にアサヒ君、チリの社会でのことをお願いできますか。

チリで使われる外来語の「junior」の意味するもの

アサヒ:たぶんさっき話したような事は、まずチリでは皆スペイン語を話しています。でもその、いろんなスペイン語あると思います。最初にスペインのスペイン語。その後、ラテンアメリカのスペイン語もあります。でもラテンアメリカのスペイン語の中で、いろんな国が10以上国があるから、それぞれの国でたぶん違う言葉を使っていると思います。もちろん、隣の国、例えばチリの隣の国、ペルーとアルゼンチンは、たぶんその国でたまに同じ言葉を使っています。でも結婚の年齢は、そんなに決まっていません。普通定義されていません。でも、もっと"OL"とかについて話します。チリで"OL"のような言葉は、まずスペイン語で、男性名詞と女性名詞もあります。それは、フランス語のようにそのような事があります。だから、秘書secretary,スペイン語で女性の場合セクレタリア(SECRETARIA)と言う。男性の場合セクレタリオ(SECRETARIO)がありますけど、でもこの場合セクレタリオ、男性の場合、ほとんど政府の人、もっと偉い人の場合使っています。でもチリで"OL"の場合、セクレタリアと言われています。でも、もし男性の場合、コピーをする人とか書類持っていて、そして英語の言葉なんですけど、意味JUNIORを使っています。どうして英語の言葉を使っているかは分かりません。理由は分からないんですけど、このセクレタリアとJUNIORは同じレベル。
佐々木:JUNIORってあるのは、たぶんちょっと進歩すれば正社員になれるけど、秘書の場合は、女性の場合は、正社員への可能性はないということですね。
アサヒ:そうですね。でも、あと、その例えば、社長のセクレタリアの場合、その言葉SECRETARIA(EJECUTIVA)、この場合セクレタリア、英語でもっと(軽い)女の人だから。
佐々木:そうですね。effectiveでしょうね。今度調べて教えて下さいね、どうしてJUNIORってあるのか。
アサヒ:どうしてこの場合、スペイン語の言葉を使っていないか分かりません。またこのような違いがあるのか。
佐々木:おそらくそういう雑用は女性がするものだったのに、男性もするようになって新しい概念を表すことばとして英語のJUNIOR が入ってきたんじゃないですか?
アサヒ:そうですね。これは男の場合、セクレタリオはもっと偉い人のことだから、この言葉を使っています。
佐々木:どうもありがとうございました。スペイン語の中に入った外来語、それも元来女性がしていた仕事を男性がするようになって取り入れられた表現というのは面白いですね。日本語にもこのような例があるかもしれませんね。

「タメ口で話しかけてもらえない悩み

敬波:私の経験をちょっとお話したいと思いますけれども。実際にですね、アルバイトをやっているじゃないですか。職場の中で、いろいろ他の人と接したりしていますけれども、いろいろなタイプの人がいますよね。積極的に話しかけてくる人と、聞かない限り全然話をしてくれない人もいる訳ですよね。大体話しかけて来る人にはですね、こういう"タメ口"を使っている人が多いと思います。こういう人に対してはですね、私の日本へ来てからの経験によりますと、やはり私自身からも、こういう人に積極的に接してあげて話しかけるように、こういう風に努力しますけれども。あまり話しかけて来ない人に対してはですね、やはり一定の距離をおいて、私達の間にはこういう距離を保った方がいいよ、というような拒絶感が生まれてくる訳ですよね。これは私の経験なんですけども、時にはですね、もう悲しい思いをする時もありますよね。何で、私達は真の友達になれないのか?どうして、私達の間で"タメ口"を使ってはいけない訳なのか?何で、心を開いてくれて話してくれないのか?というような悲しい時もあります。

これは私の母国語の中で、中国語なんですけども、敬語を使った表現とかという事がないので、普通に話されている場合は、まずこういうギャップという事がないのですが、日本語を使っている場合に特に感じましたので、お話したいと思いました。ありがとうございました。

佐々木:そういう意味で、このジェンダーとどう繋がっていくかというのは、難しい所なんですが、女性同士の"タメ口"と、それから男性が男性に話しかける場合と、女性が男性に話しかける"タメ口"というのはどうなのか、いろいろな観点からこの日本語ジェンダー学会でも取り上げていければと思います。日置先生が提起された問題は大きく広がっていく可能性がありますね。

留学生とタメ口

国広:国広と申します。"タメ口"の事ですけれども、"タメ口"は外国人に教授するのは難しいという事をきかされていますけれども。私が直接の経験したことなんですけど、新宿で電車に乗っていまして、大学の若い女子学生が二人、一人が日本人、一人がアメリカ人ですね、英語と日本語とちゃんぽんに使って話していました。英語の方は完璧な母国語で、その日本語の方はですね、 "タメ口"なんですね。全く顔を見なかったら、日本の女子学生と全然変わらない。英語を時々入れるんで、これはアメリカ人かなと、見たらそうだった。という、そういう事がありますので、そんなに心配しなくても、あるグループの中に入っていくとですね、人間関係から簡単に習得する事もあるんじゃないかなと、ちょっとそういう事を思いました。
佐々木:ありがとうございました。私も国広先生のご指摘と同様の経験があります。アメリカンスクールで教えた時に、あまりにも女子高生達が"タメ口"で私に話しかけるので、なぜだろうと思ったことがあります。考えてみると、彼らは子供の時から日本で暮らしているので、子供たちの話し方が身についているのですね。子供は待遇を意識しないで話しますから、その日本語を母語のように身につけてしまうとたとえ高校生になって体は大人のようになっても、彼らの話す日本語は「タメ口」なんですね。でも外国人が余りにも"タメ口"が上手だと、「先生そうじゃん。違うじゃん」、外国人の生徒がそういう風に言うと、「いやー、先生にはもうちょっと敬語を使わないといけないんですよ」と逆に教えたくなる。ですから日本語教育をゼロレベルから覚えた人と、それから日本の社会で育ち、その中で自然な日本語を覚えた人とでは、この"タメ口"の使い方も違うのではないか、という国広先生のご指摘ですね、私もその通りだと思います。ありがとうございました。 国際大の成松先生お願いいたします。

secretaryの意味するもの

成松:私、国際大学の経営学部の方で教えております、大学院ですけれども。あまり日本語の方は強くないんですけれども、ちょっと関心がありましたのは、secretaryについてですね。日置先生は、共産圏のお話をされましたけれども、私の経験では付き合いが大体、イギリスとかアメリカなんですけども。だから、イングランドさんのご意見をうかがえたらありがたいです。
佐々木:はい。
成松:secretaryにも二つあるように思うんですけどね。というのは、大会社の三役、代表権を持っているsecretaryですね。これは、最近は女性もいるでしょうけど、本来男性的なものですね。それと同時に、マネージャーなんかに付いているsecretary,これは完全に女性ですよね。機能は全く違いますね。そうすると、英語でもsecretaryというのはジェンダーの要素があるんどではないかという風に思うんですけども。いかがなものでしょうか?
佐々木:質問が出ましたので、イングランドさん、お願いします。
イングランド:そうですね、英語では、イギリスでは、男の会社員と女の会社員を区別するは、法律に反対しています。例えば、新聞の求人の所でも"OL"とかって書いてあったら、それはダメです。
佐々木:日本では投書欄に投書する人が自分のことを"OL"って書くことが多いですよね。自分の事を書く場合はどうなんでしょうか。
イングランド:そんなふうに書いてないと思います。
佐々木:そうですか。
日置:イギリスでは、大臣のsecretaryですよね。それからsecretaryというのは、男女の区別ではなくて機能的な区別で、非常にトップに付いて重要な仕事をする人が、secretaryでもあるし、そしてあまり重要でない人に付いて雑務をする人もsecretaryになるし。だから、男女の差というよりは、機能の差の方だと思います。
佐々木:機能の差ですね。ありがとうございました。
日置:すみません。ついでにもう一つ、これに付け加えると、"給仕"という職業があります。これは男性です。女性が一人も職場にいない時は、男性がお茶汲みをしていて給仕をした。これが、今の"OL"のお茶汲みのルーツなんです。
佐々木:
そうですね。
日置:そういう意味では、男女の区別なのか、それとも機能の差なのか。そしてその仕事を誰が受け持つのかというのが、時代によって変わってきている。それと同じ事ではないかなと思います。
佐々木:山田先生、お願いいたします。

secretaryは「機能語」

山田:今、secretaryという話が出て、私もちょっと話したいのですが、私はハーバードのlaw schoolへ行ったんですが、どこも女性のprofessorを皆さん増やそうというピュアなポリシーがありまして、多い所は50人か60人位、あるいはもっといますね、増えている。学生の方は、今、law schoolは、50:50になりましたんで、大体学んでる方は、女性が増えている訳ですが。それとその動きと対応しているんですが、男性のsecretaryが非常に多くなりまして、つまりタイプを打ったり、FAXをやったりする。いわゆる秘書室に、男性の姿がある。そうなると、今までは男性のprofessorに女性のsecretaryがあったのが、逆で、女性のprofessor に男性のsecretaryが付くという事ですから、全くsecretaryというのが機能している。アメリカでは特殊だと言うんですけど、その通りなんでしょうけど。日本ではまもなく女性教員に付く男性秘書という像が出てくるのではないかとその日を楽しみにしています。
佐々木:はい。その日がくるのを楽しみにしております。しかし、同じ職業についても、男性と女性では求められる内容が異なるのではありませんか。日本で、例えば、自衛隊というと何となく男性をイメージする方が多いと思いますが、女性の自衛官も増えています。しかし彼女たちに求められているのは、男性と同様の内容ではなく、そのスローガンには「麗しく」という男性には絶対に使われない一語が入っているんですね。なぜ、女性の自衛官に「麗しさ」が求められるのか、答えを考えるのも面白いですね。 はい。静岡の常葉大学の先生でいらっしゃいますか?お願いします。

エリジブル・バチェラーと男性社会

鈴木:えーと、ただ感想みたいですけど、今日お話を聞いて面白いなと思ったのは、イギリスの方のお話でeligible bachelorという言葉。イギリスというのは、すごく男性女性ですね。平等が進んでいる国だ、と皆さん思われていると思いますが、男性にしかこういう言葉は使わないというのは、面白いなと思いました。案外イギリスでは、男性社会なのかなという風に、僕もちょっと住んだ事があるんですけど、感じていました。僕も実は、昔独身だった時に、「君はeligible bachelorだね」と言われた事があります。チャールズ皇太子が独身だった時に、よくeligible bachelorと言われたんだそうです。そういうような表現、イギリスにはたしかにありますね。

イギリスには、あまり女性のブランド物という有名なのがなくて、男性は有名なブランド物がたくさんあるんですね。バーバリーとか、ダンヒル。バーバリーは女性も使うかな? パブなんかも、昔は男性しか行けなかった。今は、結構女性も行っているみたいですけどね。

イングランド:あとは、女性もビールを飲みますね。
鈴木:男性だけのゴルフの会員制クラブがあったりだとか、イギリスは案外男性社会ですね。それからもう一つ、今日面白かったのは、日置先生の敬語の話が非常に面白かったです。日本語とジェンダーというのを考えた時に、やっぱり敬語の要素を抜きにしては考えられないじゃないかなという風に思いました。同じその"タメ口"を使われるにしても、困っているとちょっといけないかもしれませんけれども。ただ私は、日々学生と接するんですけど、女子学生から"タメ口"で話された場合と、男子学生から"タメ口"で話された場合と、どちらの方が頭にくるかというと、まぁー答えは言いませんけど、そういう違いはやっぱりありますね。そうですね、今度、敬語の専門家の方とかが来られて、お話をされても面白いですね。
佐々木:そうでしたね。はい。その辺のフィーリングというのは、やっぱりリサーチしてみないと分からないですね。面白いご指摘ありがとうございました。タメ口は、日本社会の人間関係がベースにありますから、複雑ですね。先輩後輩の関係、内外の関係、親疎関係、年長かどうか先輩後輩の関係も入ってくるし、いろんな要素が交じり合って初めて言える事で、そこにまたジェンダーが入って来るので複雑なんですね。
福岡からいらしている方から参加のお申し込みを頂いていますが、いらっしゃいますか?
Aさん:こんにちは。今日の感想ですけれども、派遣社員の事で話がありましたが、そういう事もこのジェンダーの問題に含まれるのかという事にすごく気付かされて、それはとても刺激になりました。ありがとうございました。
佐々木:そうですね。ジェンダーにはさまざまな問題が含まれますね。ジェンダーと日本語がどのようなかかわりを持っていくのか、今後もこのように議論する機会を持ちたいと思っております。今日はパネリストの皆様、そして会場の皆様、活発な議論を大変ありがとうございました。では、今日はこれでこのフォーラムを終わらせて頂きます。どうもご参加ありがとうございました。

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