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学会誌13号-第13回年次大会シンポジウム 発表要旨(谷口)

【シンポジウム:メディアの中でジェンダーは
どんな姿を見せているのか】

子どもの本などにおけるジェンダーとジェンダー解消の試み

谷口秀子

1.はじめに

『シンデレラ』などの西洋の伝統的なおとぎ話には、因襲的な女性像・男性像やステレオタイプ的な性役割が見られることは周知のことである。たとえば、コレット・ダウリングは、『シンデレラ・コンプレックス』の中で、ヒロインがどのような苦境にあってもただ待っていれば素敵な王子様が助けに来てくれるという、因襲的なおとぎ話のパターンの幼児期の刷り込みが、成人後も女性を意識の根底で支配し続けており、女性に依存願望を植え付け自立と成功に対する恐れの感情をもたらしていると指摘し、幼児期に与えられる物語の影響力の大きさを訴えている。

また、現代の子ども向けの本や漫画やアニメなどのメディアにおいても、因襲的な女性像・男性像と固定化されステレオタイプ化された性役割が少なからず見られることも、議論の余地がないであろう。これらが、まだ十分な知識と批判能力を備えていない子どもたちに因襲的なジェンダーを刷り込み、ジェンダーを再生産する可能性も、少なくはないであろう。

一方、近年の子ども向けの本には、ジェンダーを排除しようという試みが見られるものも珍しくない。ロバータ・シーリンガー・トライツが『ねむり姫がめざめるとき』において主張しているように、将来の無限の可能性を持つ子どもたちに将来の多様な選択肢を提示することが子どもの本の使命のひとつであり、多様な女性像・男性像および男女の関係を提示し、自己像の選択肢の幅を広げることは、現代の子どもの本にとって、重要なことであろう。

本発表では、子どもの本などにおけるジェンダーに関して、ステレオタイプ的な女性像・男性像、固定的な性役割、テーマによる主人公の性別の選択などの例を論じるとともに、近年の子どもの本などに見られるジェンダーを解消する試みの主な傾向について、具体的な例をあげて考察した。

2.絵本に見られるステレオタイプ

近年の子ども向けの絵本においては、伝統的な西洋のおとぎ話に見られるような、行動する強い男性、男性の助けを待つ受け身のか弱い女性という固定的な性役割が露骨に示されている例は少ない。しかしながら、絵本に登場する女の子像・男の子像および男女の関係の描写においては、女性・男性に対する因襲的なステレオタイプが反映されている場合も少なくない。

たとえば、元気いっぱいの子どもの躍動感や力強さを描いた作品の主人公には、男の子が選ばれることが多く、探検や新しいものを見つける行為など主体的で積極的に行動する好奇心あふれた主人公としても、男の子が選ばれることが圧倒的に多い。また、たとえば、新しい土地に引っ越してきた幼い主人公の感じる不安は、女の子の主人公によって表され、さらに加えて、女の子が主人公の場合は、自分から外界に足を踏み出すのではなく、他者に働きかけられるのを待つ場合が少なくない。そして、男女の登場人物が描かれる場合、主導的な立場に立つのは主に男性であり、男性の方が女性を助け導く役割を果たすことが多い。

このように、男の子が主人公の作品を、女の子が主人公の作品と比べてみると、現実の個々の男の子や女の子の実態がどうであろうとも、作品のテーマの性質に応じて、主人公の性別が選択されていることがわかる。すなわち、因襲的に男性の属性と考えられているものには男の子を主人公に選び、女性の属性と考えられているものには、女の子を主人公にするというように、おとぎ話でもおなじみの、古くからの、女性像・男性像のステレオタイプが用いられている作品が多いことがわかる。(なお、本発表で扱った作品は、ジェンダーの現れ方の例として取り上げたものであり、筆者は各作品のすぐれた文学的価値を否定するものではない。)

3.絵本におけるジェンダー排除の試み

近年の絵本における男女の描き方にも徐々に変化が訪れている。とりわけ、1997年の男女雇用機会均等法改正および1999年の男女共同参画社会基本法公布・施行以降の作品にその傾向が見られる。その時期に作成された作品に見られるジェンダーを排除する傾向の主なものは以下の通りである。

3.1. 強い女性像

男性の助けを借りない、活動的で強い女の子像は、たとえば、『ぶんぶんひめ』や『まゆとブカブカブー』に見られる。これらのヒロインは、怪物を恐れない勇気と超人的な身体能力を有する一種の闘うヒロインであるが、少女漫画の男装のヒロインとは異なり、男性の記号を借りずに強さや主体性を示しているのが特徴である。さらに、『まゆとブカブカブー』においては、やまんばの娘であるヒロインは、因襲的には男性の特質とされる勇気と強さと、女性的とされる思いやりと優しさとの両方を兼ね備えた、いわゆる両性具有的なヒロインとなっている。

3.2. 女の子の好奇心

好奇心に溢れ、新しいものや外界に興味を示す積極性を持つ女の子像も因襲的な女性像とは異なる女性像の選択肢である。たとえば、『サッチンのあかいくつ』のヒロインには、男の子の主人公に多く見られる積極性や好奇心・探求心に似たものが感じられる。サッチンは、いろいろな履物に好奇心を覚え、実際に履いてみたり、手を入れたり、耳に当てたり、両手で持って打ちならしてみたりする積極性を有する動的なヒロインであり、この作品では、男の子を主人公にした絵本によく見られるような好奇心やそれに伴ういたずらっぽさ、そして、躍動感が、女の子によって体現されているのである。

3.3. 対等な関係

女の子と男の子の両方が描かれている場合、男性が主で女性が従というような、また、男性が主導権を握り女性は補佐役に回るという男女の関係に対する社会的通念や固定観念が、作品に反映されることも少なくないが、その関係を転換させる作品も登場している。たとえば、『なっちゃんも ついてこーい』では、男性が主で女性が従というなっちゃんとけんたくんのステレオタイプ的な関係の転換の過程が描かれる。当初のステレオタイプ的な二人の関係は、けんたくんが恐怖に駆られてパニックになった時に、なっちゃんが、落ち着いた様子で、塀にひっかかっていたセーターをはずしてやる場面を契機に転換に向かい、圧倒的な優位に立ち、主導権を持ってなっちゃんを従えていたけんたくんの弱い面と、黙ってけんたくんに従っていたなっちゃんの冷静さが、並列的に提示され、男性は主で女性は従、男性は強くて女性は弱いというステレオタイプ的な図式に再考が加えられる。この場面以後、挿絵においてもふたりは並んで描かれるようになり、これまでとは異なる今後のふたりの対等な関係が暗示される。

3.4.並列的な描き方

加えて、男女を並列的に描く作品も登場している。『くうきやへようこそ』では、女の子のりんこちゃんは、オス猫ぽんたと野原で遊んでいる途中、不思議な洞窟の入り口を見つけ、自分から、この暗くて深い洞窟に入っていくことを提案する。ふたりの間には、どちらが主でどちらが従という力関係も、積極性や好奇心や勇気や活発さの度合いの違いも、存在しない。さらに、りんこちゃんとぽんたが空にかっこいい形の雲を見た時に、「さんまの おとうさんみたい。かっこいいなあ」「ちがうよ、おかあさんみたいだよ。かっこいいなあ」「おとうさんだい」「おかあさんだい」と、ふたりに交互に語らせることにより、作者は、父親も母親も同様にどちらもかっこいい、というメッセージを読者に発信しており、ここにも、作者のジェンダー・ステレオタイプを排除しようという姿勢が表れている。

また、猫と話すことや「くうきや」での非現実的なエピソードにも関わらず、りんこちゃんの人物設定は、かなりリアリスティックであり、現実の活発な女の子の姿にかなり近い。このことは、因襲的な女性像を引きずった女の子が描かれることが多い中、元気な女の子像を提示するために、主人公を超人的な力を持つ特別な女の子として創造する作品と、『くうきやへようこそ』が異なる点であり、このような等身大の元気な女の子像は、女の子たちにとって、より良いロールモデルとなると言えよう。

4.おわりに

1999年に男女共同参画社会基本法が公布・施行され、男女共同参画社会を目指す動きが進んでいる中、日本の子どもの絵本における女性像・男性像そして男女の関係の描き方も、徐々に変化している。その変化の大きな特徴は、元気で主体性や行動力のある女の子の主人公が増えてきたことであろう。やまんばの娘や特殊な能力を持ったお姫さまのような、強い女の子が登場する作品が多数登場するのも、この時期前後以降のことである。一方で、女の子の強さは、上にあげたような、超人的な能力を持つ女の子の闘いを扱う作品ばかりではなく、普通の女の子が主人公である作品においても珍しくなくなってきている。また、女性の登場人物の多様化に加えて、女性と男性との関わりを描く際にも、ジェンダーにとらわれない描き方をする作品が見られるようになり、男女が対等な立場で協調し助け合う様子を描く作品も、徐々に増えてきている。日本の絵本の中にも、子どもたちの自己像や将来の選択肢の幅を広げる試みが着実に進んでいるようである。

参考文献
  • おりもきょうこ(2003)『くうきやへようこそ』福音館書店.
  • こいでやすこ(2003)『なっちゃんも ついてこーい』福音館書店.
  • さくらいともか(2003)『サッチンのあかいくつ』福音館書店.
  • ダウリング、コレット(1989)『シンデレラ・コンプレックス――自立にとまどう女の告白』(柳瀬尚樹(訳))三笠書房.
  • 谷口秀子(2003)「ジェンダーフリーと異形――絵本の中の女性像――」『言語文化論究』No.17、九州大学言語文化研究院、pp.29-43.
  • 富安陽子,降矢なな(2001)『まゆとブカブカブー――やまんばのむすめ まゆのおはなし――』福音館書店
  • トライツ、ロバータ・シーリンガー(2002)『ねむり姫がめざめるとき――フェミニズム理論で児童文学を読む』(吉田純子他(訳))阿吽社.
  • 沼野正子(2001)『ぶんぶんひめ』福音館書店.
(谷口秀子 たにぐちひでこ 九州大学言語文化研究院教授)

 


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