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学会誌13号-研究ノート(有泉)

会話文末における「男ことば」と「女ことば」の分類:
ジェンダー識別傾向とジェンダー特異性を指標として
 
有泉優里

要旨

本研究では、会話文末における「男ことば」と「女ことば」を、文末表現とジェンダーの関係性、及び、男性性・女性性の強さの2要素に基づいて7カテゴリに分類した。調査では、20代の学生15名を対象に、40種類の文末表現について、ジェンダー識別傾向(文末表現とジェンダーの関係性の指標)とジェンダー特異性(男性性・女性性の強さの指標)を測定した。初めに、ジェンダー識別傾向に基づいて、文末表現を「男性形式」、「女性形式」、「中性形式」に分類した後、ジェンダー特異性に応じて、「男性形式」や「女性形式」に分類された文末表現を「排他的形式」、「高特異形式」、「低特異形式」の3段階に分類した。その結果、分類カテゴリは「排他的男性形式」、「排他的女性形式」、「高特異男性形式」、「高特異女性形式」、「低特異男性形式」、「低特異女性形式」、及び「中性形式」となった。

キーワード

「男ことば」と「女ことば」、会話文末のジェンダー、ジェンダー識別傾向、ジェンダー特異性

1.序論

1-1 研究の目的

日本語には「男ことば」と「女ことば」の区別があり、会話文末の「~だぜ」や「~わ」等はその代表例である(マグロイン花岡,1997;鈴木,1997)。しかし、この区別は文法によるものではなく、人々が「男性の言語」や「女性の言語」と漠然と認識しているだけに過ぎない。会話文末の「男ことば」や「女ことば」は、フィクションで登場人物の男性性や女性性を表現するためによく利用されるが、現実の使用傾向にはそれほど明確なジェンダー差はみられない。言葉遣いに関してジェンダー規範の影響があるものの(中村, 2001;2008)、その場でどんな表現を用いるかは話者の選択次第であり、若い世代ほど言葉遣いが「中性化」しやすいともいわれる(小林,1993)。それでもなおフィクションで「男ことば」や「女ことば」が多用されるのは、実使用の有無に関わらず、人々の頭の中で「男性の言語」や「女性の言語」に関する知識が共有されているためだと考えられる。このことから、ことばのジェンダーを理解する一つの手段として、人々の認識を基に文末表現を分類することが有用とみられる。そこで、文末表現とジェンダーに関する人々の認識を調査して、会話文末における「男ことば」と「女ことば」を分類することを本研究の目的とした。

「男ことば」と「女ことば」の捉え方は一つではなく、研究の目的や方向性に合わせた枠組みや分類法がある。例えば、中島(1999)では文末における疑問表現が「女性的」、「中立的」、「男性的」に分類され、因(2003)では漫画で用いられる文末表現が「女性語」、「女性的中立語」、「中立語」、「男性的中立語」、「男性語」の5種類に分類された。また、テレビで使用される「女ことば」を分類した高崎(1996)では、「女性専用」、「女性が多用」、「性に無関心」、「女性が普通あまり使わない」、「女性が殆ど使わない」の5段階を用いた。本稿で報告する調査は、会話文末のジェンダーに基づいた話者の印象形成に関する実証研究の一端として行われた ‎注1。本稿では、その印象研究(有泉,2007)に倣い、男性と関係がある(男性用と認識される)文末表現を「男性形式」、女性と関係がある(女性用と認識される)文末表現を「女性形式」と呼ぶことにした。

1-2 分類の指標

本研究では、文末表現の分類指標として「文末表現とジェンダーの関係性」と「男性性・女性性の強さ」の2要素に着目する。「男ことば」や「女ことば」をジェンダー・ステレオタイプのようなものと考えると、「一方の性別がより使用していると人々に認識されている言語」を広義の「男ことば」と「女ことば」とみることができる。ジェンダー・ステレオタイプとは、男性や女性が持っている画一的な特徴についての信念(思い込み)のことで、具体的には、一方の性別により当てはまると人々に信じられている心理的特性や行動傾向を指す(Williams & Best, 1982)。この定義に倣えば、文末表現が「男性形式」か「女性形式」に分類される必要最低条件は、その文末表現が(女性よりも)男性に関係すると認識されているか、(男性よりも)女性に関係すると認識されているかとなるだろう。よって、文末表現とジェンダーの関係性により、文末表現を「男性形式」、「女性形式」、または、それ以外の中性的表現(以下、「中性形式」)に分類することにした。

しかし、上記の関係性指標は、文末表現がどのくらい男性的か女性的かというニュアンスを表しにくいため、男性性・女性性が強いものから弱いものまでを段階的に分類するには不向きとみられる。そこで、個々の文末表現について男性性や女性性の強さを別に測定し、男性形式と女性形式の段階的な分類における指標とすることにした。一方で、男性性・女性性の強さの指標のみで文末表現を分類しようとした場合、「男性性の弱い男性形式」と「女性性の弱い女性形式」の違いや「中性形式」との僅かな差異が不明確になる恐れがある ‎注2。故に、分類過程では文末表現とジェンダーの関係性指標を優先させる必要があるだろう。

調査では、文末表現とジェンダーの関係性は「ジェンダー識別傾向」、文末表現の男性性・女性性の強さは「ジェンダー特異性」を測定の指標とする。「ジェンダー識別傾向」は、文末表現が男性用または女性用に識別されやすい程度を表す。ある文末表現が男性用と識別されやすいほど男性と関係していることを示し、女性用と識別されやすいほど女性と関係していることを示すといえる。「ジェンダー特異性」は、文末表現が男性性または女性性と結びつく程度を表す。調査では、個々の文末表現が男性と女性のどちらにどのくらい偏って使用されるかを回答者に尋ね、この変数を測定する。ジェンダー規範により、男性は男らしく、女性は女らしく振る舞うことが奨励され、それに反する行為は規制される社会的傾向がある。故に、人々の認識の中で、男性による使用に偏っている文末表現ほど男性性とより結びついており、女性による使用に偏っている文末表現ほど女性性とより結びついていると考えられる。

1-3 分類カテゴリ

分類過程では、初めにジェンダー識別傾向の調査結果に基づいて、文末表現を「男性形式」、「女性形式」、「中性形式」に分類する。男性に関係すると認識された文末表現を「男性形式」、女性に関係すると認識された文末表現を「女性形式」に分類し、ジェンダーとの関係が確認されない文末表現を「中性形式」とする。次に、ジェンダー特異性の調査結果に基づいて、「男性形式」や「女性形式」に分類された文末表現を男性性・女性性の強い方から「排他的形式」、「高特異形式」、「低特異形式」の3段階に分類する。この結果、分類カテゴリは「排他的男性形式」、「排他的女性形式」、「高特異男性形式」、「高特異女性形式」、「低特異男性形式」、「低特異女性形式」、及び「中性形式」の7種類となる。

男性形式と女性形式の段階的な分類において、「排他的形式」は、ジェンダーに反した使用(男性による女性形式の使用、女性による男性形式の使用)が普通の状況では考えられないほど、男性性や女性性が極めて強い文末表現を指す。一方、「高特異形式」と「低特異形式」はジェンダーに反した使用の可能性が多少はあると認識されるもので、「排他的形式」に比べて男性性や女性性が穏やかな文末表現である。このうち、「高特異形式」は男性性や女性性が比較的強く、ジェンダーに沿った使用(男性による男性形式の使用、女性による女性形式の使用)が多いと考えられている文末表現である。「低特異形式」は男性性や女性性が比較的弱く、話者の性別にあまり関わりなく使用されると考えられている文末表現である。

2.調査方法

2-1 回答者

調査は、東京都内の大学に通う大学生と大学院生の15名(男性7名、女性8名)を対象として2005年4月に実施された。回答者は全員20代で、日本語を母語としていることを回答前に口頭で確認した注3

2-2 調査票

調査票は、設問文、及び、会話文と回答欄からなる回答項目によって構成された。設問文では、会話文中の文末表現が男性用と女性用のどちらだと思うか(ジェンダー識別傾向)、また、その文末表現が一方の性別にどのくらい偏って使用されていると思うか(ジェンダー特異性)について回答を求めた。両項目について判断できない場合は空欄にするようにも明記した。図1に設問文と回答項目の例を示した。

会話文は、同じ文末表現を含む2種類を1組とし、判断対象の文末表現を下線で示した。会話文を2つ1組で提示したのは、複数の事例を挙げてジェンダーに関する判断を容易にするため、また、特定の会話内容が回答に影響するのをできるだけ防ぐためであった。会話文の直ぐ下にジェンダー識別傾向の回答欄(「男性」か「女性」を強制選択)を設け、その横にジェンダー特異性の回答に用いる4点尺度(1=「男性だけが使う」、2=「男性のほうが多い」、3=「女性のほうが多い」、4=「女性だけが使う」)を配した。調査票の最後に、回答者の性別と所属(学部・研究科)を尋ねる項目を設けた。

図1 設問文と回答項目の例

調査対象の文末表現は40種類であった。調査対象にはジェンダーに関わると考えられる文末表現の他に、関係が薄いとみられるものも含めた。会話文の作成時には、日本語の文法書(Makino &Tsutsui,1986;益岡・田窪,1989)や社会言語学の先行研究(マグロイン花岡,1997;鈴木,1997)で例示された文末表現を参考にした。提示した全会話文を付録Aに示した。

ジェンダー識別傾向の測定方法は、WilliamsとBest(1982)のジェンダー・ステレオタイプ調査を参考にした。その調査では、200の特性形容詞を男性か女性のどちらにあてはまるかを尋ね、その回答比率をジェンダー・ステレオタイプの指標とした(Williams &Best, 1981)。この例に倣い、本調査では多種の文末表現について男性か女性のどちらが用いるものかを強制的に選択させ、その回答数を検討した。調査対象に中性的表現が含まれていても回答選択肢に「中性」等を設けなかったのはこのためである。判別が付きにくい状況でも敢えて「男性」か「女性」を選択させ、いずれかに回答が偏れば、その文末表現は(人々が明確に意識していなくても)男性または女性に関係しているといえる。この他、尺度の中点(例えば5点尺度では「3」)や「どちらでもない」等の中立的な選択肢に回答が集中する一般的傾向を踏まえ、ジェンダー特異性項目には中点を設けない4点尺度を採用した。

2-3 手続き

各回答者に調査票を一部ずつ配布した。調査者が口頭で「深く考えずに、第一印象で答えてください」と伝えた後、回答者は調査票への回答を始めた。

3.調査結果

3-1 集計

各文末表現のジェンダー識別傾向について、「男性」と「女性」の回答数を集計した。各文末表現のジェンダー特異性については、「男性だけが使う(以下、男性だけ)」、「男性のほうが多い」、「女性のほうが多い」、「女性だけが使う(以下、女性だけ)」の回答数を集計した他、尺度平均点を算出した。この尺度平均点を「ジェンダー特異性得点」と名付けた。この得点は2.5を中点とし、数値がより低いほど「男性に偏って使用される」と判断される傾向が強く、より高いほど「女性に偏って使用される」と判断される傾向が強いことを示した。以上の結果を表1(男性形式)、表2(女性形式)、表3(中性形式)に示した。

表1 「男性形式」に分類された文末表現

文末表現 直前の語形 ジェンダー識別傾向 ジェンダー特異性
男性用 女性用 男性だけ 男性のほうが多い 女性のほうが多い 女性だけ 得点
だぜ 名詞 15 0 12 3 0 0 1.20
だろ 名詞 15 0 8 7 0 0 1.47
だろ 動詞連体形 15 0 7 8 0 0 1.53
んだろ 動詞連体形 15 0 7 8 0 0 1.53
んだぜ 動詞連体形 15 0 7 8 0 0 1.53
動詞連体形 15 0 6 9 0 0 1.60
よな 動詞連体形 15 0 6 9 0 0 1.60
だい 動連(疑問) 15 0 6 8 1 0 1.67
かい 名詞(疑問) 15 0 5 8 2 0 1.80
名詞 15 0 3 9 3 0 2.00
だな 名詞 15 0 2 9 4 0 2.13
のか 動連(疑問) 15 0 1 8 6 0 2.33
んだ 動詞連体形 15 0 1 7 7 0 2.40
だろう 動連/名詞 15 0 0 9 6 0 2.40
動詞連体形 13 2 0 7 8 0 2.40
んだ 形容詞連体形 14 1 0 8 7 0 2.47
だよ 名詞 14 1 0 8 7 0 2.47
だろうな 動詞連体形 15 0 0 7 8 0 2.53


表2 「女性形式」に分類された文末表現

文末表現

直前の

語形

ジェンダー識別傾向 ジェンダー特異性
男性用 女性用 男性だけ 男性のほうが多い 女性のほうが多い 女性だけ 得点
わよ 動詞連体形 0 15 0 0 2 13 3.87
動詞連体形 0 15 0 0 4 11 3.73
なの 名詞 0 15 0 0 5 10 3.67
かしら 動詞連体形 0 15 0 0 5 10 3.66
名詞 0 15 0 0 6 9 3.60
名詞 0 15 0 0 7 8 3.53
よね 名詞 0 15 0 0 7 8 3.53
のね 動詞連体 0 15 0 0 7 8 3.53
なのよ 形容詞連体 0 15 0 0 8 7 3.47
のよ 動詞連体形 0 15 0 0 9 6 3.40
動詞連体形 0 15 0 3 8 3 3.00
でしょうね 名詞 0 15 0 3 9 2 2.93
んでしょ 動詞連体形 0 15 0 6 8 1 2.67
(ん)だもん 動連/名詞 0 15 0 6 8 1 2.67
でしょう 動詞連体形 0 15 0 6 9 0 2.60
動連(疑問) 0 15 0 6 9 0 2.60
動詞連体形 0 15 0 7 8 0 2.47
でしょ 動詞連体形 0 15 0 8 7 0 2.47

ジェンダー特異性について一部の文末表現に未回答があった(「ね(動詞連体形)」1、「でしょうね(名詞)」1)。

表3 「中性形式」に分類された文末表現

文末表現 直前の語形 ジェンダー識別傾向 ジェンダー特異性
男性用 女性用 男性だけ 男性のほうが多い 女性のほうが多い 女性だけ 得点
わけ 動詞連体形 5 6 0 6 9 0 2.60
かな 名詞 6 7 0 7 8 0 2.53
から 動詞連体形 7 6 0 8 7 0 2.47
動詞連体形 5 9 1 7 7 0 2.40

ジェンダー特異性について一部の文末表現に未回答があった(「わけ(動詞連体形)」4、「かな(名詞)」2、「から(動詞連体形)」2、「よ(動詞連体形)」1)。

3-2 ジェンダー識別傾向に基づいた分類

ジェンダー識別傾向の結果によると、18語の文末表現について大半の回答者あるいは全員が男性用と判断しており(表1)、別の18語については回答者全員が女性用と判断したため(表2)、それぞれを「男性形式」と「女性形式」に分類した。一方、残りの4語については、識別傾向に偏りが殆どみられないか未回答が多くあったため、これらを「中性形式」に分類した(表3)。

3-3 男性形式・女性形式の段階的分類

ジェンダー特異性の結果を概観すると、「男性形式」に分類された文末表現は、「男性だけ」または「男性のほうが多い」の回答が多いが、一部の文末表現については「女性のほうが多い」という回答もあったことが分かった(表1)。また、「女性形式」に分類された文末表現についても、「女性だけ」または「女性のほうが多い」の回答が多いが、一部の文末表現については「男性のほうが多い」という回答もあった(表2)。一方、「男性形式」とされた文末表現を「女性だけ」と回答した回答者、または、「女性形式」とされた文末表現を「男性だけ」と回答した回答者は一人もいなかった。

以上の結果を踏まえて、「男性形式」に分類された文末表現18語のうち、「男性だけ」の回答が特に多かった(回答者の3分の2を超えた)1語を「排他的男性形式」に分類した。次に、「男性だけ」の回答と「男性のほうが多い」の回答が散らばっていた8語を「高特異男性形式」に分類した。残りの、「男性だけ」の回答が比較的少ないか全く無く、「男性のほうが多い」の他にも「女性のほうが多い」の回答も多少あった9語を「低特異男性形式」に分類した。

上記と同様の基準で、「女性形式」に分類された文末表現の段階的分類を行った。「女性だけ」の回答が特に多かった(回答者の3分の2を超えた)2語を「排他的女性形式」に、「女性だけ」の回答と「女性のほうが多い」の回答が散らばっていた8語を「高特異女性形式」に分類した。「女性だけ」の回答が比較的少ないか全く無く、「女性のほうが多い」の他にも「男性のほうが多い」の回答も多少あった8語を「低特異女性形式」に分類した。以上の分類結果と各カテゴリのジェンダー特異性得点の分布を表4に示した。

表4 文末表現の分類

分類カテゴリ 文末表現(直前の語形) ジェンダー特異性得点分布
排他的男性形式 だぜ(名詞) 1.20
高特異男性形式 だろ(名詞)、だろ(動詞連体形)、んだろ(動詞連体形)、んだぜ(動詞連体形)、ぞ(形容詞)、だい(名詞:疑問形)、かい(名詞:疑問形)、よな(動詞連体形) 1.47以上、1.80以下
低特異男性形式 だ(名詞)、んだ(動詞連体形)、んだ(形容詞連体形)、んだよ(動詞連体形)、だな(名詞)、だよ(名詞)、(の)か(動詞連体形:疑問形)、な(動詞連体形)、だろう(動詞連体形) 2.00以上、2.53以下
排他的女性形式 わ(動詞連体形)、わよ(動詞連体形) 3.73以上
高特異女性形式 なの(名詞)、ね(名詞)、よ(名詞)、かしら(動詞連体形)、よね(名詞)、のね(動詞連体形)、のよ(動詞連体形)、なのよ(形容詞連体形) 3.40以上、3.67以下
低特異女性形式 ね(動詞連体形)、でしょうね(名詞)、でしょ(動詞連体形)、んでしょ(動詞連体形)、でしょう(動詞連体形)、の(動詞連体形)、の(動詞連体形:疑問形)、んだもん(動詞連体形) 2.47以上、3.00以下
中性形式 かな(名詞)、から(動詞連体形)、わけ
(動詞連体形)、よ(動詞連体形)
2.40以上、2.60以下

ジェンダー特異性得点の分布では(表4)、「男性形式」に分類された文末表現のうち「排他的男性形式」、「高特異男性形式」、及び、「低特異男性形式」の間で数値の重複はみられなかった。同様に、「女性形式」に分類された文末表現のうち「排他的女性形式」、「高特異女性形式」、及び、「低特異女性形式」の間についても数値の重複はなかった。このことから、表4に示した分類結果が、男性形式と男性性との結びつきの強さ、及び、女性形式と女性性との結びつきの強さを段階的に表していることが示唆された。

一方、「低特異男性形式」と「低特異女性形式」に分類された文末表現の一部にはジェンダー特異性得点の重複がみられた。また、これらには「中性形式」に分類された文末表現ともジェンダー特異性得点が重複したものもあった。ジェンダー特異性に基づけば、「低特異男性形式」に分類された文末表現の一部は際立って男性的といえず、「低特異女性形式」に分類された文末表現も際立って女性的とはいえない。しかし、ジェンダー識別傾向によると、「低特異男性形式」に分類された文末表現は男性用と識別される傾向があり、「低特異女性形式」に分類された文末表現は女性用と識別される傾向があった。よって、これらの文末表現は、ジェンダー特異性得点が低くても、ジェンダーと関係のない「中性形式」とは違い、男性または女性と関係があると認識されていることが示唆された。

4.本研究の限界と今後の課題

本研究では、文末表現をジェンダーに基づいて分類する際に、ジェンダー識別傾向(文末表現とジェンダーの関係性の指標)とジェンダー特異性(男性性・女性性の強さの指標)の2つを分類指標とする必要性を論じ、調査を実施した。しかし、本稿で報告した調査は、印象形成に関する実証研究の一端として行われたため、調査結果を標準的な「男ことば」と「女ことば」の分類として一般化するには限界がある。本研究における分類カテゴリ間の境界は、母体の印象研究の都合に合わせたもので、調査回答者は15名と少ないうえ属性も偏っていた。また、実施地域は東京都に限られていたが、研究対象の「男ことば」や「女ことば」は共通語(標準語)であるため、関東圏以外の人々にとって言語感覚が異なる可能性があるだろう。さらに、ことばに関する感覚は刻一刻と変化しているため、調査結果も実施時期から時間が過ぎてしまえば古い傾向を示しているだけに過ぎない。以上を踏まえ、どの文末表現がどのカテゴリに分類されたか等については、限られた条件下で得られた結果とみなすべきであろう。

調査票についても多くの問題点があり、今後は改善していく必要がある。まず、回答欄の配置が偏った回答を導いた可能性は見逃せない。ジェンダー識別傾向の回答欄とジェンダー特異性の回答欄が並列に配置されたため(図1)、回答者が2つの回答を意識的に合わせることができる状態であった(例:ジェンダー特異性で「女性のほうが多い」を選んだので、ジェンダー識別傾向でも「女性」を選ぶ)。その結果、未回答が減り、「男性」や「女性」の回答に偏った結果を生じさせた可能性は否定できない。回答者の素直な考えを引き出すためには、2変数を別々の項目として異なるページに配する等の工夫が必要だとみられる。さらに、半数の回答者は先にジェンダー識別を行った後でジェンダー特異性を判断し、もう半分の回答者は先にジェンダー特異性を判断した後でジェンダー識別を行うことで、回答順序による影響を相殺する必要もあるだろう(カウンターバランス)。また、文末表現の提示順序が特定の回答を導いた可能性もあるため、半数の調査票で提示順序を逆にする等の工夫も必要だろう。この他、一つの文末表現につき会話文が2種類提示されたが、特定の会話内容が回答に影響を及ぼした可能性が消えたわけではない。事前に会話内容がジェンダーと無関係であることを確認し、何種類提示することが妥当かを再検討することが課題である。

  1. 本稿で報告した分類結果は、印象研究において実験材料となる会話文の作成時に利用された。有泉(2007)では、男性形式の使用は横暴性に関わる男性的印象を与え、女性形式の使用は消極性、感受性に関わる女性的印象を与える効果があることが示された(文末形式のジェンダー効果)。また、ジェンダーに反した文末表現の使用は、ジェンダーに沿った文末表現の使用よりも、男性形式や女性形式に基づいた印象を強める傾向があることも分かった(文末形式のクロス・ジェンダー効果)。上記の印象効果を検討するために、排他的男性形式と排他的女性形式は会話文から除外された。本文に戻る
  2. 「男性性の弱い男性形式」、「女性性の弱い女性形式」、及び、中性的表現はジェンダーの弱さという点で殆ど差はないが、話者の印象形成過程における影響を考えると別のカテゴリとみる必要がある。会話のやり取りでは、複数の文末表現が数度に渡り使用されるのが一般的であるため、男性性・女性性が弱いものでも、男性形式や女性形式の使用は話者の印象に影響するとみられる。例えば、女性性が弱い女性形式でも繰り返し使用すれば、話者の女性性が表現される可能性は高いが、中性的表現を繰り返し使用しても話者の男性性・女性性は表現されにくい。本文に戻る
  3. 本研究の母体である印象研究で、東京都かその近郊在住の20代の学生が実験参加者であったため、この分類調査の回答者にも似た属性を持つ人が選ばれた。本文に戻る
付記

本稿は、博士論文「文末形式のジェンダーに基づいた話者の印象形成に関する実証的研究」の一部の調査データを、単独の論考として書き直したものである。

謝辞

本稿で報告した分類調査を博士論文にまとめる際に、東京大学の山口勧先生、池田謙一先生、唐沢かおり先生、東京学芸大学の相川充先生、東洋大学の北村英哉先生より多くの貴重なご指導を頂きました。心よりお礼申し上げます。

引用文献
  • 有泉優里(2007)文末形式のジェンダーが話者の印象に及ぼす影響『社会言語科学』9(2), 3-16.
  • 因 京子(2003)マンガに見るジェンダー表現の機能『日本語とジェンダー』3(https://gender.jp/journal/backnumber/no3_contents/chinami/
  • 小林恵美子(1993)世代と女性語‐若い世代のことばの「中性化」について『日本語学』12(5),181‐192.
  • マグロイン花岡直美(1997)終助詞 井出祥子(編)『女性語の世界』明治書院33-41.
  • MAKINO, Seiichi &TSUTSUI, Michio(1986)A dictionary of basic Japanese grammar. Tokyo:TheJapan Times.
  • 益岡隆志・田窪行則(1989)『基礎日本語文法』くろしお出版
  • 中村桃子(2001)『ことばとジェンダー』頸草書房
  • 中村桃子(2008)『<性>と日本語』日本放送出版会
  • 中島悦子(1999)疑問表現の様相 現代日本語研究会(編)『女性のことば:職業編』 ひつじ書房59-82.
  • 鈴木睦(1997)女性語の本質:丁寧さ,発話行為の視点から 井出祥子(編)『女性語の世界』明治書院59-73.
  • 高崎みどり(1996)テレビと女性語『日本語学』15(9),
    46-56.
  • Williams, John E. &Best, Deborah L.(1982)Measuring sex stereotypes:A thirty-nation study. Beverly Hills:Sage Publications.

付録A:会話文(調査票で提示した順序)
1 「明日の1時だな。」「今日は雨だな。」
2 「…も、その本買ったの。」「…に行ってきた。」
3 「結構よかった。」「期待した以上だった。」
4 「今日提出しなくてもいいわけ?」「日曜にも開いてるわけ?」
5 「…なら行ったことある。」「明日までに仕上げる。」
6 「今日は休講だぜ。」「もうすぐ昼だぜ。」
7 「わかっているわよ。」「すぐ行くわよ。
8 「もうすぐ締め切り。」「このままだと遅刻。」
9 「思い出したくないことなの。」「明日は雨なの。」
10 「この分だと明日は雨だろうな。」「今出ても遅刻だろうな。」
11 「おもしろいこと言う。」「教えてあげる。」
12 「ここ、おいしいんだよ。」「それ考えすぎだよ。」
13 「…は、混んでたかい?」「もう終わりかい?」
14 「また明日。」「面白い先生。」
15 「…に行ってきたのか?」「これでいいのか?」 16 「この分だと休講でしょうね。」「明日は雨でしょうね。」
17 「これ、おいしい。」「今日は遅い。」
18 「よくあるでしょ。」「…に、よく行くでしょ。」
19 「この分だと雨だろ。」「もうすぐ試験だろ。」
20 「どうしても無理。」「このままだと遅刻。」
21 「よく食べる。」「結構たくさんいる。」
22 「その本、取ってくれないかしら。」「これでいいかしら。
23 「今日は持ってきたんだぜ。」「…は時間がかかるんだぜ。」
24 「今日来る?」「そんなことありえる?」
25 「多分間に合わないだろう。」「今度は大丈夫だろう。」
26 「今朝は早く来たのよ。」「もう、始まるのよ。」
27 「もう行くんだろ。」「いかなくていいんだろ。」
28 「いつも遅刻よね。」「これは今日提出よね。
29 「今日提出するんだよ。」「…が来たんだよ。」
30 「やめることにしたのよ。」「今度旅行に行くのよ。」
31 「・・・に行くんだ。」「面白いんだ。」
32 「バイトがあるんだもん。」「だって夏だもん。」
33 「これ、おいしいんだ。」「明日は朝が早いんだ。」
34 「前に言ったでしょう。」「さっき食べたでしょう。」
35 「こんなでいいかな。」「今日は雨かな。」
36 「今度旅行に行くんでしょ。」「好きに答えていいんでしょ。」
37 「今日は早く終わるから。」「今度持ってくるから。」
38 「きっと雨でしょうね。」「強いて言えばこっちでしょうね。」
39 「もう帰る。」「今度、持ってくる。」
40 「今日はどれにするんだい?」「これでどうだい?

(有泉優里 ありいずみゆかり 放送大学教養学部非常勤講師)

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